最新記事

エリザベス女王死去

ダイアナ死去で犯した間違い、好きだった英首相・米大統領... 元BBC記者が書くエリザベス女王の96年

A QUEEN FOR THE AGES

2022年9月18日(日)16時00分
ロビン・オークリー(ジャーナリスト、元BBC政治担当記者)

イギリス初の女性首相マーガレット・サッチャーとの相性は悪かった。意気投合した数少ない例の1つは、1983年に英連邦グレナダへの侵攻を命じたロナルド・レーガン米大統領に対する怒りだった。

女王は議会の法案に署名し、外国の大使を迎え、軍人に忠誠を誓わせる。英国国教会の名目上の最高権威でもある。

威光はあっても具体的な権限を伴わない地位だが、それでもエリザベス2世は冷静沈着な性格と公務に忠実な生き方で君主制の存在意義をアピールし、道徳的な正統性を維持してきた。

2014年にスコットランド独立の是非を問う住民投票を控えた時期、当時の首相デービッド・キャメロンは、住民に英国残留を促すため、女王に「眉をひそめる」よう求めた。

だが女王は唯一の対応として、自身の通うスコットランド・バルモラル城近くの教会の前で市民の1人に向かい、投票については「注意深く考えて」と語りかけるにとどめた。宮殿関係者によると、キャメロンが表立ってそのような要請をしたことを、女王は不快に感じたようだ。

イギリスのEU離脱を問うブレグジット論争では、両陣営がそれぞれ、なんとか女王を自分たちの陣営に引きずり込もうとした。しかし女王は、この問題で国民全体に憎悪と分断が広がったことを残念に思っていた。

2019年にこう語っている。

「個人としての私は、失敗と挑戦を重ねてきたやり方を好みます。互いに相手を褒め、異なる視点を尊重し、一致点を見いだすために協力します。そして、決して大局的な視点を失わないことです」

一度だけだが、政治的な問題に関して、女王の意向をそれとなく政府側に伝えるよう王室スタッフに促したことがある。

南アフリカのアパルトヘイト(人種隔離政策)への制裁措置に、英連邦内でサッチャー政権だけが反対したときのことだ。即位時に英連邦の全ての民に尽くすと約束していた女王は首相の態度に失望し、英連邦の崩壊につながりかねないと危惧していた。

それでも時代は変わり、女王に対しても王室の現代化を求める圧力は強まった。王室の維持費に対する批判は根強く、トニー・ブレア首相の時代には「王室による浪費」の象徴とされた豪華ヨットが引退を強いられた。

その退役行事で、女王は珍しく人前で涙を見せたという。1992年からは、女王も皇太子チャールズも、自主的に所得税とキャピタルゲイン税を納めてきた。

ダイアナ死去で犯した間違い

在位中、女王と国民の関係が最も危うくなったのは、1997年にパリで起きたダイアナ元妃の交通事故死のときだ。人気抜群のプリンセスの死を世界中が悲しむなか、女王はどこかよそよそしかった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

情報BOX:パウエル米FRB議長の会見要旨

ビジネス

FRB、12月1日でバランスシート縮小終了 短期流

ビジネス

FRB0.25%利下げ、2会合連続 量的引き締め1

ワールド

ロシアが原子力魚雷「ポセイドン」の実験成功 プーチ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    コレがなければ「進次郎が首相」?...高市早苗を総理に押し上げた「2つの要因」、流れを変えたカーク「参政党演説」
  • 3
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」にSNS震撼、誰もが恐れる「その正体」とは?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【クイズ】開館が近づく「大エジプト博物館」...総工…
  • 6
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 7
    リチウムイオンバッテリー火災で国家クラウドが炎上─…
  • 8
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 9
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 10
    怒れるトランプが息の根を止めようとしている、プー…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した国は?
  • 4
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 5
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 6
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大シ…
  • 9
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任…
  • 10
    「信じられない...」レストランで泣いている女性の元…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 4
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 9
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中