最新記事

エリザベス女王死去

ダイアナ死去で犯した間違い、好きだった英首相・米大統領... 元BBC記者が書くエリザベス女王の96年

A QUEEN FOR THE AGES

2022年9月18日(日)16時00分
ロビン・オークリー(ジャーナリスト、元BBC政治担当記者)

220920p18_EHK_02.jpg

1987年、並んでイギリスの伝統競技ポロの試合を見物するダイアナ妃と女王 TIM GRAHAM PHOTO LIBRARY/GETTY IMAGES

ウィリアムとヘンリーの両王子、その父チャールズと共にバルモラル城で休暇を過ごしていた女王は、世間の悲しみに同調しようとせず、半旗の掲揚も命じなかった。

幼い王子たちを世間の目から遠ざけたかったのだろうと言われている。だが多くの批判と政府からの圧力を受けて、ついに女王はロンドンに戻り、半旗の掲揚を命じることになった。

このエピソードは、女王と王室が、階級や特権に対する考え方が劇的に変化した世界への適応に苦労したことを示す例だった。

その後、女王をはじめ王室は、より親しみやすく、庶民の感覚を取り入れようとしたが、それは簡単な道ではなかった。

王室内部で分裂が起きることもあった。女王の3人の子の結婚は、離婚という形で終わった。

なかでもチャールズとダイアナの破局では、双方がメディアを味方に付けようと策動し、世間を騒がせた。必然的に、王室の輝きは損なわれた。

追い打ちをかけたのがヘンリー王子と妻のメーガン妃だった。この夫妻は公務を捨てるだけでなく、アメリカのテレビ番組に出て内幕を赤裸々に話した。王室内で息子アーチーの肌の色の可能性を「懸念し、取り沙汰する会話」があったとも述べた。

女王の次男アンドルー王子の名が児童買春の斡旋で悪名高いジェフリー・エプスタインの顧客リストにあったことも明るみに出て、王室にはさらなるダメージがもたらされた。

チャールズ新国王への逆風

愛された女王が去り、チャールズが国王となって、さてイギリス王室はどこへ行くのか。

君主制擁護派には、史上最大級の逆風を覚悟せよとの声もある。

エリザベス2世の個人的な人気は最後まで衰えなかったが、それでも若い世代では支持率が低迷する。あの女王を愛した国民が、女王の息子を同じように愛するとは思いにくい。

君主制の大胆な改革や廃止を求める人たちは、この日を待っていたに違いない。

エリザベス2世が90歳を過ぎても淡々と公務を果たし続けている限り、声高に王室批判を叫んでも国民の共感を得られるはずがなかった。その女王が去った今は、どんな変化が起きてもおかしくない。

オーストラリアでは、英王室と縁を切ろうとする動きが復活しそうだ。元首相のマルコム・ターンブルは共和制支持者だが、エリザベス女王の存命中は英連邦からの離脱を提案しても無駄だと語っていた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米EV税控除、一部重要鉱物要件の導入2年延期

ワールド

S&P、トルコの格付け「B+」に引き上げ 政策の連

ビジネス

ドットチャート改善必要、市場との対話に不十分=シカ

ビジネス

NY連銀総裁、2%物価目標「極めて重要」 サマーズ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 3

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を受け、炎上・爆発するロシア軍T-90M戦車...映像を公開

  • 4

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 5

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 6

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 7

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 10

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 6

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 7

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中