最新記事

東南アジア

ミャンマー、元英国大使に禁固1年の実刑 スピード判決は制裁続ける英国への牽制か

2022年9月4日(日)21時15分
大塚智彦
スピーチするビッキー・ボウマン氏

2017年にヤンゴンで行われたTED Talkでスピーチするビッキー・ボウマン氏。 TEDx Talks / YouTube

<クーデターから1年半が経過し、拘束した外国人の扱いにも変化が──>

ミャンマーの裁判所が9月2日に元駐ミャンマー英国大使のビッキー・ボウマン氏に対し、入国管理法違反容疑で禁固1年の実刑判決を言い渡していたことがわかった。

ボウマン氏は入管当局に届け出していたヤンゴン市内の住所と異なる場所に居住しており、住所変更の届け出と許可申請を怠っていたことが入管法違反に問われて8月24日に逮捕されていた。

夫でミャンマー人の芸術家テイン・リン氏もボウマン氏の入管法違反幇助の容疑で同じく逮捕され、禁固1年の判決を受けたという。

ボウマン氏は2002〜06年まで駐ミャンマー英国大使を務めたほか、それより前の1990〜93年までは駐ミャンマー英国大使館で2等書記官として勤務するなどミャンマー専門の外交官だった。

テイン・リンさんと結婚後はヤンゴン市内に居住してミャンマーの企業や進出した外国企業などに対してビジネスの透明性や公平性の向上さらに人権問題の改善などを目的とする「責任あるビジネスを目指すミャンマー・センター(MCRB)」の代表としてビジネスを展開していた。

MCRBは2013年に起業され、以来ボウマン氏は代表責任者として活躍していた。

悪名高い刑務所に収監

ボウマン氏とテイン・リンさんは8月24日に入管当局に身柄を拘束されてヤンゴン市内にあるテインセイン刑務所に収監されていた。テインセイン刑務所は服役囚の生活環境の悪さや刑務官による恣意的な暴力行使などでミャンマーでも最も悪名高い刑務所といわれている。

ボウマン氏夫妻は実刑判決後もテインセイン刑務所で服役するものとみられている。

8月24日の身柄拘留から逮捕、訴追、裁判を経て、9月2日に初審の判決言い渡しというわずか10日間のスピードの速さにボウマン氏の早期釈放を求めていた人権団体などは驚きを隠せないでいる。

元英国大使という過去の経歴がありながら、ミャンマー国内でビジネス支援という企業活動をするとともに、軍政批判につながる人権問題にも取り組むなどの姿勢が軍政の反発を買い、入管法違反という容疑での「摘発」につながったとの見方が有力だ。

早期の公判結審に対しては「ボウマン氏の早期釈放」を軍政に要求している在ミャンマー英国大使館さらに英国外務省に対し、断固とした軍政の姿勢を迅速に示すことで、米国と並びミャンマーへ経済制裁を実施する英政府の反発を改めて示した形となった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

8月米卸売在庫横ばい、自動車などの耐久財が増加

ビジネス

10月米CPI発表取りやめ、11月分は12月18日

ビジネス

ミランFRB理事、12月に0.25%利下げ支持 ぎ

ワールド

欧州委、イタリアの買収規制に懸念表明 EU法違反の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    中国の新空母「福建」の力は如何ほどか? 空母3隻体制で世界の海洋秩序を塗り替えられる?
  • 3
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 4
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    ロシアのウクライナ侵攻、「地球規模の被害」を生ん…
  • 7
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 8
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 9
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 10
    EUがロシアの凍結資産を使わない理由――ウクライナ勝…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 10
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中