最新記事

イスラエル

国策としての「標的殺害」を行うイスラエル、外交上に本当に有益なのか?

ISRAEL'S CHOICE WEAPON

2022年7月8日(金)15時03分
ダニエル・プレトカ(アメリカン・エンタープライズ研究所シニアフェロー)

220712p46_IRN_02.jpg

イランの首都テヘランではイスラエルの国旗を燃やしてソレイマニ暗殺などに抗議する集会が(今年4月29日) MORTEZA NIKOUBAZLーNURPHOTO/GETTY IMAGES

核科学者を遠隔操作で殺害

ファクリザデはイランの核開発計画の中枢にいる人物として、世界中の情報機関に目を付けられていた。イランの核技術の輸出にも重要な役割を果たし、北朝鮮を訪れていたことも確認されている。

しかもファクリザデの殺害方法は、小説まがいの謎に包まれていた。情報が錯綜し、爆弾で殺されたとも、射殺されたとも伝えられたが、最終的には遠隔操作の機関銃で蜂の巣にされたという結論に落ち着いた。

ふつう、イスラエルの政府当局者はこの手の「標的殺害(ターゲテッド・キリング)」についてコメントしない。しかしファクリザデの死については、なぜか関係者の誰かが匿名で、米紙ニューヨーク・タイムズに詳細を語っている。こうだ。

「スピードバンプ(減速帯)があったので彼の車列はスピードを落とした。対向車線にはザムヤッド(イランの小型トラック)が止まっていた」。それに積んであったのは遠隔操作の機関銃。「そこで野良犬を放って進路を塞ぎ、向こうの車のフロントガラスに機関銃から銃弾を浴びせた」。そう赤裸々に語っている。

イラン政府へのメッセージは明らかだ。おまえたちの居場所も行動も把握している、こっちはいつでも、おまえらを排除できるぞ、である。

イランにとっては想定外の事態だったのだろう。だから対応は乱れた。何者かに暗殺された、車が爆破された、人工衛星で居場所を特定されたなどの情報が飛び交った。イランの情報相は、自国の軍部に共犯者がいた可能性までほのめかした(もちろん軍部は否定した)。

当然、仕返しは必要だ。ほぼ1年後、イラン国内ではイラン海軍がオマーン湾で米海軍と対峙し、追い払ったというニュースが大々的に報じられた。どうみても作り話だったが、ファクリザデの殺害を許した屈辱を晴らすには必要な一手だった。

ファクリザデは秘密の核兵器開発計画を主導し、その全体像を把握している重要人物だった。彼が死ねばイランの核武装が遅れるのは確実だった。だからイスラエルは、戦略的な観点から暗殺にゴーサインを出した(アメリカも同様な戦略的判断を下し、イラン革命防衛隊の幹部ガセム・ソレイマニ司令官をイラクの空港で殺している)。

イスラエルの立場からすると、敵の計画遂行に不可欠な高位の指導者を狙い撃ちにすることには戦略的な意味がある。かつてアメリカで原爆を開発したマンハッタン計画で重要な役割を果たしたロバート・オッペンハイマーのように、急所となる人物は必ず存在する。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

宇宙船オリオン、4人乗せ地球に無事帰還 月の裏側を

ワールド

アングル:イラン戦争でインフレ再燃、トランプ政権に

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、中東停戦維持期待で安全資産

ワールド

イラン交渉団がパキスタン到着、レバノン停戦要求 米
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプの大誤算
特集:トランプの大誤算
2026年4月14日号(4/ 7発売)

国民向け演説は「フェイク」の繰り返し。泥沼化するイラン攻撃の出口は見えない

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収される...潜水艦の重要ルートで一体何をしていた?
  • 2
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文章」...歴史を塗り替えかねない、その内容とは?
  • 3
    停戦合意後もレバノン猛攻を続けるイスラエル、「国防軍は崩壊寸前」
  • 4
    撃墜された米国機から財布やID回収か、イラン側が拡…
  • 5
    目のやり場に困る...元アイスホッケー女性選手の「密…
  • 6
    ポケモンで遊ぶと脳に「専用の領域」ができる? ポ…
  • 7
    中国がイラン戦争一時停戦の裏で大笑い...一時停戦に…
  • 8
    「仕事ができる人」になる、ただ1つの条件...「頑張…
  • 9
    「南東部と東部の前線で480平方キロ奪還」とウクライ…
  • 10
    「地獄を見る」のは米国か──イラン地上侵攻なら革命…
  • 1
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 2
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文章」...歴史を塗り替えかねない、その内容とは?
  • 3
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収される...潜水艦の重要ルートで一体何をしていた?
  • 4
    韓国、生理用品無償支給を7月から開始 靴の中敷きで…
  • 5
    「南東部と東部の前線で480平方キロ奪還」とウクライ…
  • 6
    イラン戦争の現実...アメリカとイスラエル、見え始め…
  • 7
    「考えの浅い親」が子どもに言ってしまっている口ぐ…
  • 8
    「地獄を見る」のは米国か──イラン地上侵攻なら革命…
  • 9
    撃墜された米国機から財布やID回収か、イラン側が拡…
  • 10
    ポケモンで遊ぶと脳に「専用の領域」ができる? ポ…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 3
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収され…
  • 9
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 10
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中