最新記事

イスラエル

国策としての「標的殺害」を行うイスラエル、外交上に本当に有益なのか?

ISRAEL'S CHOICE WEAPON

2022年7月8日(金)15時03分
ダニエル・プレトカ(アメリカン・エンタープライズ研究所シニアフェロー)

220712p46_UKR_02B.jpg

パレスチナでは空爆で殺されたハマス指導者の葬儀(写真)で多くの人がイスラエルへの怒りを爆発させた(2004年) ABID KATIB/GETTY IMAGES

組織崩壊を目指す必殺作戦

権限や知識が少数の者に集中する非民主的な政府やテロ組織では、そういう急所が二重にも三重にも重い意味を持つ。1995年10月にパレスチナの武装組織「イスラム聖戦」は、創設者ファトヒ・シカキを殺されて壊滅的な打撃を受けた。

96年1月には爆弾作りの名人として「ジ・エンジニア」と呼ばれたイスラム原理主義組織ハマスのヤフヤ・アヤシュが殺された。ハマスにとってはかけがえのない貴重な才能が奪われたのだ(当然、報復は迅速かつ痛烈だった。4回にわたる自爆テロで民間人多数の命が奪われた)。

こうした標的殺害は、実は数え切れないほど行われている。11人のイスラエル人が殺された1972年のミュンヘン五輪「黒い9月」テロ以降、イスラエルはその実行犯と指導者を消すために全力を挙げてきた。逃げおおせた者はほとんどいない。

イスラエルの仇敵ハマスの創始者アハメド・ヤシンも逃げられず、04年にミサイルで殺された。後継者のハリド・マシャアルも殺されかけた。このときは毒殺の予定だったが、事前に発覚し、実行犯はヨルダン警察に捕らえられた。その釈放と引き換えに、イスラエルは解毒剤を提供することになった。

一方、アメリカがテロ組織と指定するヒズボラ(レバノンの有力な政治団体)の幹部イマド・ムグニアは、08年にシリアで殺害されている。

こうした国家的な暗殺を自著で暴いたイスラエルのジャーナリスト、ロネン・バーグマンによれば、この国は建国以来の約50年で500件、それ以降の20年で少なくともその3倍の暗殺を実行している。

実際、この作戦の成功率は高い。だからイスラエル政府は、イランの核開発計画に関わるトップクラスの人物だけでなく、実務レベルの人物まで「標的」にしている。

言うまでもないが、標的殺害をやっているのはイスラエルだけではない。「暗殺」という手法を表向きは否定しているアメリカも、主として高性能な無人攻撃機を利用して無数の殺人を実行している。

11年にパキスタンでウサマ・ビンラディンの隠れ家を急襲したときも、たとえビンラディンがその場で降伏しても、迷わず射殺していたに違いない。

モラルよりも目先の効果

かくして標的殺害は政治の道具となった。なぜか。それが有効で、一定の効果は期待できるからだ。敵国の重要な計画の遂行に不可欠な人物を消せるからだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

経産省、ラピダスへの6315億円の追加支援決定 総

ワールド

宇宙船オリオン、4人乗せ地球に無事帰還 月の裏側を

ワールド

アングル:イラン戦争でインフレ再燃、トランプ政権に

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、中東停戦維持期待で安全資産
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプの大誤算
特集:トランプの大誤算
2026年4月14日号(4/ 7発売)

国民向け演説は「フェイク」の繰り返し。泥沼化するイラン攻撃の出口は見えない

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収される...潜水艦の重要ルートで一体何をしていた?
  • 2
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文章」...歴史を塗り替えかねない、その内容とは?
  • 3
    停戦合意後もレバノン猛攻を続けるイスラエル、「国防軍は崩壊寸前」
  • 4
    撃墜された米国機から財布やID回収か、イラン側が拡…
  • 5
    目のやり場に困る...元アイスホッケー女性選手の「密…
  • 6
    ポケモンで遊ぶと脳に「専用の領域」ができる? ポ…
  • 7
    中国がイラン戦争一時停戦の裏で大笑い...一時停戦に…
  • 8
    「仕事ができる人」になる、ただ1つの条件...「頑張…
  • 9
    「南東部と東部の前線で480平方キロ奪還」とウクライ…
  • 10
    「地獄を見る」のは米国か──イラン地上侵攻なら革命…
  • 1
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 2
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文章」...歴史を塗り替えかねない、その内容とは?
  • 3
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収される...潜水艦の重要ルートで一体何をしていた?
  • 4
    韓国、生理用品無償支給を7月から開始 靴の中敷きで…
  • 5
    「南東部と東部の前線で480平方キロ奪還」とウクライ…
  • 6
    イラン戦争の現実...アメリカとイスラエル、見え始め…
  • 7
    「考えの浅い親」が子どもに言ってしまっている口ぐ…
  • 8
    「地獄を見る」のは米国か──イラン地上侵攻なら革命…
  • 9
    撃墜された米国機から財布やID回収か、イラン側が拡…
  • 10
    ポケモンで遊ぶと脳に「専用の領域」ができる? ポ…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 3
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収され…
  • 9
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 10
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中