最新記事

医療

治験中のがん新療法、18人全員の腫瘍が6ヶ月で消失 専門医「前代未聞」

2022年6月15日(水)15時30分
青葉やまと

がん細胞が消えた...... 写真は、ヒト結腸がん細胞 NCI Center for Cancer Research/Urbain Weyemi, Christophe E. Redon, William M. Bonner

<手術の必要もなく、薬の服用だけですべての患者が寛解に至った>

アメリカで行われた小規模な臨床試験において、参加者全員のがんが消失する結果が確認された。研究に直接参加していないがん専門医も、「前代未聞」の効果だと述べ驚きをあらわにしている。

この臨床試験は、特定のタイプの直腸がんの患者を対象としたものだ。より多くの患者に適用するため現在も治験が続けられており、現在のところ18名に対して実施が完了している。治療薬のドスタリマブを従来よりも早い段階で投与したところ、これら18名において、投薬開始から6ヶ月後までに100%のケースで腫瘍が消失していることが確認された。

患者たちにとっても思いがけない吉報となったようだ。患者たちは当初、服薬のみならず、放射線療法や手術など複合的な手法で治療を進めると説明されていた。一般に、侵襲的な放射線治療や手術では、腫瘍の縮小を期待できる一方、身体機能の一部を喪失するリスクが伴う。投薬のみでの寛解を知った患者らは完治に驚き、正常な身体機能が今後も維持できると喜んでいるという。

臨床試験はニューヨークのメモリアル・スローン・ケタリング・がんセンター(MSTがんセンター)が主導し、製薬会社のグラクソ・スミスクラインが資金を支援している。うち12人の患者についての試験結果をまとめた論文が6月5日、医学ジャーナル『ニュー・イングランド・ジャーナル・オブ・メディスン』に掲載された。

複数の検査で消失を確認 2年経っても再発せず

18人全員の腫瘍がなくなる展開は、治験を担当した医師たちの予想を超えるものだった。直腸がんを患うこれらの患者たちは、ドスタリマブを3週間隔で6ヶ月間投与されたのみだ。治験終了時に、診察、内視鏡、精密検査のPET、MRIスキャンを実施したが、いずれの手法でも腫瘍の存在が確認されなかったため完治と判断された。

治験は2019年から順次行われ、現在までに18名の患者が実施期間を完了している。投薬終了から最長で2年が経過しているが、どの患者にも腫瘍の再発は確認されていない。論文著者であるMSTがんセンターのルイス・A・ディアス Jr.博士は、ニューヨーク・タイムズ紙に対し、「がんの歴史上、はじめての出来事だと考えています」と説明している。博士の認識する限り、すべての患者のがんを完全に消滅させた研究はこれまでにないという。

研究に直接関与していない第三者も、治験の成果に驚きの表情を浮かべる。カリフォルニア大学サンフランシスコ校で大腸がんを専門に研究しているアラン・P・ヴェノーク博士は、患者全員で完治が確認されたのは「前代未聞」だとコメントしている。

今回は特定の直腸がんで確認 応用に期待

治験の対象となったのは、ミスマッチ修復欠損型(MMRd)とよばれる種類の直腸がんだ。細胞分裂時などにDNAの鎖のうえに不正な塩基対が発生することがあるが、このエラーを除去する機能が働かないことで遺伝子が不安定になり、腫瘍が発生しやすくなる。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

中国人宇宙飛行士、地球に無事帰還 宇宙ごみ衝突で遅

ビジネス

英金融市場がトリプル安、所得税率引き上げ断念との報

ワールド

ロシア黒海の主要港にウの無人機攻撃、石油輸出停止

ワールド

ウクライナ、国産長距離ミサイルでロシア領内攻撃 成
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    文化の「魔改造」が得意な日本人は、外国人問題を乗…
  • 5
    「水爆弾」の恐怖...規模は「三峡ダムの3倍」、中国…
  • 6
    中国が進める「巨大ダム計画」の矛盾...グリーンでも…
  • 7
    『トイ・ストーリー4』は「無かったコト」に?...新…
  • 8
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 9
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 10
    ファン激怒...『スター・ウォーズ』人気キャラの続編…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 8
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 9
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中