最新記事

航空戦

ロシア空軍が弱いのは何もかも時代遅れだったから

Search WORLD Exclusive: Russia's Air War in Ukraine is a Total Failure, New Data Show

2022年5月26日(木)19時33分
ウィリアム・アーキン(元米陸軍情報分析官)

ロシアはウクライナに複数のダムボムを投下し、数発のレーザー誘導弾を発射してきたが、戦場以外の場所を攻撃するのに使ってきたのは、多くがミサイルだ。ベラルーシとロシアの地上から発射されたのはいずれも、ミサイルシステム「イスカンデル」から発射された弾道ミサイルや巡航ミサイル(合わせて630発)だ。艦船や潜水艦から発射されてきたのは、巡航ミサイル「カリブル」(ロシア版トマホーク)。クリミア沿岸からは、一握りの標的に向けて地対艦ミサイル「オニキス」が発射された。

空からは、戦術戦闘機や中型・大型戦闘機が、Kh-22/32、Kh-55/555、Kh-59 やKh-101など複数の空対地ミサイルをランダムに投下してきた。このほかに、極超音速ミサイルの「キンジャール」も12発発射した。

ウクライナ西部の標的を攻撃するには射程距離の問題があり、補給がうまくいかないために兵器を変更しなければならないこともあった。だが全体的に見れば、最大の問題はロシア軍があまり洗練されていないことだ。

ミサイル命中率は4割以下

「全体的に見て、ロシアのミサイルの命中率は半分をかなり下回る」と、米国防情報局(DIA)の匿名の職員は言う。この職員によれば、ロシアが撃つミサイルは10発のうち2、3発は飛ばないか、飛んでる途中で失速する。あとの2発は標的に到達しても起爆せず、さらに2、3発は照準に命中し損なう。「ロシアのミサイルの命中率は、40%にも達しない」

ウクライナ軍によれば、ウクライナの空域に入ったロシアの巡航ミサイルの10%近い110発撃ち落としたという。

「命中したとしても、狙いが何だったのかが問題だ」と、DIA職員は言う。「2日ほど飛行場と対空システムを攻撃してきたかと思えば、次は弾薬貯蔵庫、そして石油施設、工場、輸送網と、次々に目標が変わる。大した打撃はないし、後続の攻撃もない」

米軍流の戦略的空爆作戦は一度も試されていない。ウクライナの対空システムを破壊し損ねただけでなく、電力供給網や民間通信網も狙ってこないという。

「なぜゼレンスキーを黙らせないのか」と、空軍を退役した元軍人はいぶかる。「インターネットや通信を遮断するのは簡単ではないかもしれないが、試してみもしない」

彼によれば、ロシア空軍は米軍より30年遅れている。「彼らはここまで長引く作戦の準備ができていないし、量的な破壊ではなく効果を基準にした標的の選択の重要性がわかっていない。戦闘による損失の評価(BDA)も、動的ターゲティングのノウハウも持っていない」

だからロシア軍はザトカ橋の攻撃と攻撃の間に1週間もかかるのだ。戦果のほどを評価し、次の作戦を練るまでに1週間を要するからだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英サービスPMI、11月は51.3に低下 予算案控

ワールド

アングル:内戦下のスーダンで相次ぐ病院襲撃、生き延

ビジネス

JFE、インド一貫製鉄所運営で合弁 約2700億円

ビジネス

エアバス、今年の納入目標引き下げ 主力機で部品不具
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇気」
  • 2
    大気質指数200超え!テヘランのスモッグは「殺人レベル」、最悪の環境危機の原因とは?
  • 3
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が猛追
  • 4
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 5
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 6
    コンセントが足りない!...パナソニックが「四隅配置…
  • 7
    若者から中高年まで ── 韓国を襲う「自殺の連鎖」が止…
  • 8
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 9
    海底ケーブルを守れ──NATOが導入する新型水中ドロー…
  • 10
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 3
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 8
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 9
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 10
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中