最新記事

北朝鮮

「一族の神話」崩壊に追い込む、ロックダウンに耐えられない脆弱な経済

A Disaster in the Making

2022年5月25日(水)14時55分
ジャスティン・フェンドス(韓国・東西大学教授)
金正恩

マスクを着用して平壌市内の薬局を視察に訪れた金正恩(5月15日配信) KCNAーREUTERS

<北朝鮮でオミクロン株の感染者が初確認されてから2週間。人口2600万人のうち感染者は早くも1割を超え、今後1000万人まで増えるとの予想も。脆弱な医療体制と経済のなか、ミサイル発射は人道支援の呼びかけか?>

北朝鮮が初めての新型コロナウイルス感染者を確認したと発表して2週間近く。このニュースはどのような意味を持つのか。今後、北朝鮮でどのようなことが起きると予想できるのか。国際社会への影響はどのようなものなのか。

これまでの動きを見る限り、北朝鮮当局は状況の深刻さをよく理解しているようだ。

新型コロナのオミクロン株が国内に流入して初の感染者が確認されたと発表されたのは5月12日。この日、金正恩(キム・ジョンウン)総書記が新型コロナ対策を話し合う会議に出席し、現在の状況を「建国以来の大動乱」と呼んだ。検閲やプロパガンダによって新型コロナの感染拡大をなかったことにはできないと、北朝鮮当局も気付いているのだ。

実際、北朝鮮の国民の大多数は新型コロナワクチンを接種しておらず、栄養状態が悪い人も多い。医療体制も時代遅れで脆弱と言わざるを得ない。新型コロナの感染拡大が北朝鮮にもたらす脅威はあまりにも大きい。

現在の北朝鮮は、大規模な感染拡大の初期段階だが、この後の感染状況はどうなると予想できるのか。私たちは今年1月、北朝鮮で全国規模の感染拡大が起きた場合に入院患者と死者がどのくらいの数に上るかを統計モデルによって予測した。

私たちのモデルによれば、感染拡大のペースにもよるが、北朝鮮では今後1~2年の間に1000万人前後の成人が新型コロナに感染すると予測できる(これは北朝鮮の成人のおよそ半分に相当する)。入院が必要となる患者は28万人に上る見込みだ。

基礎疾患がある人の割合など、北朝鮮に関しては明らかになっていない要素が多く、死者数を予測することは難しい。それでも、私たちが持っている情報を基に予測すると、成人1000万人が感染した場合、死者数は4万4000~22万人と予測できる。北朝鮮の医療・保健状況を考えると、この死者数の幅の中では、厳しい予測のほうが現実に近いだろう。

市民と軍の衝突激化も

では、北朝鮮当局が実行できる対策には、どのようなものがあるのか。感染拡大を防ぐには、中国のアプローチをお手本にするしかない。それは、強力なロックダウン(都市封鎖)だ(既に全道の封鎖を指示)。

しかし、北朝鮮は中国のような充実した検査体制を持っておらず、検査で感染者を徹底的に洗い出すことが難しい。そのため、当局は、限りある情報に基づいて判断を下すほかない。具体的には、発熱患者数を基準にせざるを得ないだろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米ISM製造業景気指数、4月48.7 関税の影響で

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官解任へ=関係筋

ビジネス

物言う株主サード・ポイント、USスチール株保有 日

ビジネス

マクドナルド、世界の四半期既存店売上高が予想外の減
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中