最新記事

ロシア

食洗機のパーツを戦車に搭載 制裁のロシア軍、チップ不足で苦悶

2022年5月20日(金)18時43分
青葉やまと

パターソン報道官はまた、半導体や通信機器など規制対象となった技術品目のアメリカからロシアへの輸出について、昨年同期比で数量ベースで85%減少したとも述べた。金額ベースでは実に97%の落ち込みをみせているといい、とくに高性能のチップで厳しい規制が実施されていることがわかる。

精密誘導弾の製造への影響も必至だ。米国防総省の高官は記者団に対し、「周知のとおり、制裁にはプーチン氏によるこうした(兵器の)在庫補充をさらに困難にする目的があり、こと精密誘導弾に使用される複数の電子部品が該当する」と述べている。

精密誘導弾は、GPSやレーザー誘導など高度な技術を搭載し、ターゲットへの命中性を高めた誘導弾だ。意図する攻撃目標を確実に破壊し、同時に周囲への被害を軽減する効果がある。

制裁の成果は、すでに前線で観測されている模様だ。米CBSニュースは、ロシア軍が通称「ダム・ボム(無能な爆弾)」と呼ばれる無誘導弾を多用しはじめたと報じる。とくにマリウポリへの攻撃でこの傾向が顕著に出ており、精密誘導弾の在庫枯渇があからさまに表面化している。

関連して米フォーリン・ポリシー誌も、精密な誘導能力のないダム・ボムの使用が増加していることを挙げ、「戦争初期の段階においてロシア軍は、先進兵器の在庫の相当量を使い切った」との見方を示した。

チップ不足の波紋、自動車・戦車メーカーにも

産業界への影響も顕著だ。制裁を受け3月には、ロシア最大の自動車メーカーが休業に追い込まれた。ライモンド商務長官は、「自動車製造のラーダは従業員を一時休職とし、業務を停止しました」と述べ、禁輸措置の成果を強調している。

ラーダ・ブランドを製造するアフトヴァース社は、ロシア最大の自動車メーカーだ。同社は欧州からの部品不足を理由に3月下旬、工場の一時閉鎖を発表した。

5月に入り、同社はさらに苦境に立たされる。米CNNは5月16日、ラーダ・ブランドの経営権を握っていたルノーがこれまで過半数を保持していたアフトヴァース株を売却し、ロシア事業から撤退すると報じた。

乗用車に限らず、戦車の製造にも影響が及ぶ。ロシアでは、戦車製造を担っていた2社がチップ不足を原因とした休業に追い込まれた。ホワイトハウスはこれまでに、世界最大の戦車製造社であるウラルヴァゴンザヴォド社、および重機製造のチェリャビンスク・トラクタープラント社の2社が、ともに操業を停止しているとの状況を明かしている。

原因は明らかに、制裁による部品の入手困難だ。米フォーチュン誌は、「西側の制裁によりロシアは、装備品の損失を補充するだけの能力を失った。また、ロシア最大の戦車メーカーは、部品を使い果たしたと述べている」と報じている。

対ロシアでの経済制裁は着実に成果を生み、ウクライナ領内でのロシア軍の攻撃能力を弱体化させているようだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米、中国に関税交渉を打診 国営メディア報道

ワールド

英4月製造業PMI改定値は45.4、米関税懸念で輸

ビジネス

日銀、政策金利を現状維持:識者はこうみる

ワールド

韓国最高裁、李在明氏の無罪判決破棄 大統領選出馬資
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 10
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中