最新記事

ウクライナ侵攻

反プーチン派に残ったのは絶望と恐怖と無力感...ロシア国民の本音とは【現地報告】

BACK TO THE U.S.S.R.

2022年4月28日(木)17時35分
アンナ・ネムツォーワ(米オンライン誌「デイリー・ビースト」モスクワ支局員)

220405P18_NEM_05.jpg

モスクワのスーパーもやや品薄に(3月3日) Newsweek Japan

「人命より大切なものはない」。そう自身のインスタグラムに書き込んだのは、ギフト・オブ・ライフの創設者で人気女優のチュルパン・ハマートワだ。

「私たちの基金は15年間、このスローガンで子供たちを救ってきた。7万人の病気の子を助けてきた。......でも今は隣の兄弟国で、子供も大人も、病気ではなく爆発で死んでいる。胸が痛む。こんな戦争はやめてほしい」

ハマートワはロシア人に愛されている本物のスターで、誠実な人だ。政府による反体制活動家の迫害にも抗議してきた。そんな彼女も、3人の娘を連れてラトビアへ逃れた。今はロシアに「帰るのが怖い」と言う。

ロシアの反政府派は厳しい状況に置かれている。プーチン批判の急先鋒で、要人たちの汚職を告発してきたアレクセイ・ナワリヌイ(45)は刑務所に閉じ込められている。ナワリヌイは2020年に毒殺されかけたが、なんとか命を取りとめ、21年にドイツから帰国したところで逮捕され、収監されてしまった。

検察当局は先日、ナワリヌイを詐欺と法廷侮辱罪で9年間、さらに過酷な重罪犯用刑務所へ送るよう求めた。ナワリヌイは囚人服姿で法廷に立ち、こう言い放った。「全ての人を刑務所に閉じ込めることはできない。たとえ113年の刑を宣告されても、私たちは恐れない」と。

反政府派に残ったのは絶望と恐怖と無力感

きっと世界中が、ロシアの反政府派に期待していただろう。だが彼らは沈黙を強いられ、残ったのは絶望と恐怖、そして無力感だ。

「ロシアにいても、近い将来に明るい見通しはない。まともで賢い人間はこの国を出たほうがいい」。サンクトペテルブルクに住む元医師のオルガ・ウラジミーロフナは本誌にそう語った。「私たちはソ連時代にあまりに多くの弾圧を受け、多くの反体制派の投獄を見てきた。でも今後は、もっとひどくなりそうだ」

220405P18_NEM_03.jpg

反戦集会が行われた日のロシアの首都モスクワのニコリスカヤ通り(3月6日) Newsweek Japan

ロシアでは表面上、一般人の生活は劇的には変化していない。モスクワの劇場は満席で、かなり高額なボリショイ劇場のバレエ『白鳥の湖』の週末の公演のチケットも売り切れた。3月23日も、街の交通渋滞はいつものようにひどかった。

だが、ロシアの人々は今の自分たちの生活を、火が出て崖から落ちていきそうな列車の食堂車で食事をしている状態に例えている。

プーチンの盟友であるゲンナジー・ティムチェンコ、ガス企業ノバテクの経営者レオニード・ミケルソン、政商ワギト・アレクペロフなど、ロシアの富豪たちはロシア軍のウクライナ侵攻以来、それぞれ数十億ドルの損失を被った。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米5月住宅建設業者指数45に低下、1月以来の低水準

ビジネス

米企業在庫、3月は0.1%減 市場予想に一致

ワールド

シンガポール、20年ぶりに新首相就任 

ワールド

米、ウクライナに20億ドルの追加軍事支援 防衛事業
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 3

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 4

    それでもインドは中国に勝てない...国内企業の投資意…

  • 5

    マーク・ザッカーバーグ氏インタビュー「なぜAIを無…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    奇跡の成長に取り残された、韓国「貧困高齢者」の苦悩

  • 8

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中