最新記事

再生医学

ヒトの皮膚細胞を30年若返らせることに成功

2022年4月19日(火)19時00分
松岡由希子

再生医学に革命が起きるか...... guvendemir-iStock

<ヒトの皮膚細胞を30年若返らせる手法が開発され、画期的な成果として注目されている......>

特有の機能を喪失することなく「老化時計」を巻き戻し、ヒトの皮膚細胞を30年若返らせる手法が開発された。研究の初期段階ではあるものの、再生医学に革命をもたらしうる画期的な成果として注目されている。

加齢に伴って細胞の機能は低下し、ゲノムに老化の痕跡が蓄積していく。古い細胞の修復や置換の手段として有力視されているのが幹細胞化だ。京都大学の山中伸弥教授らの研究チームは2007年、特定の機能を持つ正常な細胞をあらゆる種の細胞に成長できる能力を備えた幹細胞に変えることに初めて成功した。

細胞の初期化を誘導する因子として「Oct3/4」、「Sox2」、「Klf4」、「c-Myc」の4つの分子が特定され、これらは「山中因子」と呼ばれる。「山中因子」を用いた幹細胞への初期化には約50日かかり、初期化すると細胞が未分化な状態に戻り、特定の機能を喪失する。

「山中因子」を用いた「MPTR法」を開発

英バブラハム研究所の研究チームは、この手法をベースとしながら、プロセスの途中で初期化を停止することで細胞の特定の機能を喪失させない「MPTR法」を開発した。この研究成果は2022年4月8日付オープンアクセス誌「イーライフ」で発表されている。

中年のドナーの皮膚線維芽細胞に「山中因子」を13日だけ作用させたところ、加齢に伴う変化が取り除かれ、特定の機能は一時的に喪失した。この細胞に通常の条件下で増殖する時間を与えて、皮膚細胞に特有の機能が回復するかどうか観察した。その結果、ゲノム解析では皮膚線維芽細胞の特徴的なマーカーを回復していることが示され、この細胞のコラーゲン産生も確認された。

30年若い細胞のプロファイルと一致

研究チームは、「エピジェネティック時計」(細胞の年齢を示すゲノム中の化学的な目印)や「トランスクリプトーム」(細胞によって生成されるすべての遺伝子の読み出し)から細胞の年齢を測定した。その結果、部分的に初期化された皮膚線維芽細胞は30年若い細胞のプロファイルと一致していた。

線維芽細胞は骨や腱、靭帯に含まれるコラーゲンを産生し、組織の構造を整えたり、傷の治癒に役立つ。若返った線維芽細胞はコラーゲンをより多く産生した。また、線維芽細胞は修復が必要な部位に移動する。ペトリ皿の細胞層に人工的な切り傷をつくって実験したところ、若返った線維芽細胞はこの切り傷へより速く移動した。

細胞の一過性の初期化に成功したメカニズムについてはまだ完全に解明されていない。研究チームでは「細胞の特徴の形成に関与するゲノムの重要な領域が初期化のプロセスから逃れるのかもしれない」と推測している。

「細胞はその機能を失わずに若返ることができる」

研究論文の筆頭著者でバブラハム研究所のディルジット・ジル博士は、一連の研究成果をふまえ「細胞はその機能を失わずに若返ることができ、若返りによって古い細胞の機能を回復させているようだ」と結論している。

また、米アルトスラボに所属する責任著者のウルフ・レイク博士は「いずれは初期化せずに若返らせる遺伝子を特定し、これを標的にすることで、老化の影響を軽減できるようになるかもしれない」と期待を寄せている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

イランの「黒い雨」、WHOが健康被害を警告 

ワールド

欧州委員長、原発縮小は「戦略ミス」 化石燃料依存に

ワールド

G7、石油備蓄放出のシナリオ策定をIEAに要請=仏

ワールド

イスラエル外相「終わりのない戦争望まず」、終結時期
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのミュージカル入門
特集:教養としてのミュージカル入門
2026年3月17日号(3/10発売)

社会と時代を鮮烈に描き出すミュージカル。意外にポリティカルなエンタメの「魔力」を学ぶ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 3
    キャサリン皇太子妃、英連邦デー式典に出席...公開された皇太子夫妻の写真が話題に
  • 4
    「一日中見てられる...」元プロゴルファー女性の「目…
  • 5
    人間ダンサーを連れて「圧巻のパフォーマンス」...こ…
  • 6
    40年以上ぶり...イスラエル戦闘機「F-35I」が、イラ…
  • 7
    身長や外見も審査され、軍隊並みの訓練を受ける...中…
  • 8
    ホルムズ海峡封鎖、石油危機より怖い「肥料ショック」
  • 9
    トランプも無視できない? イランで浮上した「危機管…
  • 10
    イランがドバイ国際空港にドローン攻撃...爆発の瞬間…
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 3
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで続くのか
  • 4
    【長期戦はイラン有利】米側の体制転覆シナリオに暗…
  • 5
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 6
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 7
    キャサリン皇太子妃、英連邦デー式典に出席...公開さ…
  • 8
    日本の保護者は自分と同じ「大卒」の教員に敬意を示…
  • 9
    中国はイランを見捨てた? イランの「同盟国」だっ…
  • 10
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 4
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 5
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...…
  • 6
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 7
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 8
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中