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ウクライナ情勢

非核戦争はいつ核戦争に変わるのか──そのときプーチンは平然と核のボタンを押す

Nuclear Fears Intensify As Ukraine War Builds. What Is Putin's Threshold?

2022年3月8日(火)19時50分
フレッド・グタール(本誌サイエンス担当)

2020年1月には、イラン軍が民間航空機を撃墜。イランは当時、革命防衛隊の司令官だったガセム・ソレイマニが殺害されたことへの報復として、イラク国内にある米軍基地への攻撃を行っており、民間航空機を「敵性標的」と誤認したという。2014年にはウクライナ東部の上空で、マレーシアの民間航空機が撃墜された。親ロ派の武装勢力が、ウクライナ軍の輸送機と誤認して撃墜したとみられる。

ロシアによる核の脅しは抑止目的である可能性が高いが、それでもこの脅しが「作用と反作用の悪循環」につながる可能性があると、ジョージタウン大学のタルマッジは言う。脅しを受けて、周辺のNATO諸国は東部の国境地帯に部隊や兵器を配備し、警戒態勢を敷く可能性がある。ロシア軍から地上攻撃を受けるおそれがあるバルト諸国が、部隊や兵器を国境の前進陣地に移動させれば、ロシアはそれを攻撃態勢と解釈する可能性がある。そうなれば緊張が高まり、一発の弾丸がきっかけで、ロシアとNATOの紛争が勃発することになる。

マサチューセッツ工科大学のポーゼンは、「西側諸国の間に、感情的な議論の高まりがみられるのが気掛かりだ」と指摘する。「『この戦争に勝とう。プーチンを倒せるかもしれない』と先走り、ある種の勝利の病にかかっている様子がみられる」

ナチス台頭の繰り返しか

プーチンは核の部隊に特別警戒態勢を取るよう命じたとしているが、これまでのところ、同部隊が戦略核を保管庫から取り出して、運搬車両に移動させた証拠は一切ないと、ロシア専門家で国際危機グループの欧州・アジア担当部長であるオリガ・オルカーは言う。

「ロシアがなんらかの攻撃を計画していることを伺わせるような、核兵器の移動があれば、私は大いに心配するだろう」と彼女は言う。「ロシアが核部隊の警戒態勢について、何かを変えた証拠がないという事実は、ひとまずの安心材料だ」

ヨーロッパでの動きが、世界中で核の緊張を高めることになる可能性もある。オリカーは、ウクライへの軍事介入を回避した西側諸国がこれを失敗と感じ、次に大国が小国を飲み込もうとしたときは必ず戦うと決意することを案じる。ウクライナでの失敗は、かつてナチスドイツの侵略を大目に見る宥和政策が、ヒトラーの台頭を招いたミュンヘン協定を思い出させるからだ。

そうなればヨーロッパはNATO軍を増強して、ロシアとの将来の紛争に備えることでより大きな危険を招く可能性がある。「NATO加盟国とロシアの戦争が、核兵器の使用につながるリスクは現実にある」とオリカーは指摘する。

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