最新記事

飛行機

ウクライナが誇る世界最大の航空機、ロシアの攻撃で破壊される

2022年3月2日(水)12時40分
青葉やまと

1980年代ソ連で、再使用型宇宙往還機「ブラン」を輸送するために計画され1機のみ製造された Vasiliy Koba-wikimedia

<首都郊外の空港でメンテナンス中、攻撃に遭遇。世界に1機しかない巨大貨物機が失われた>

ロシアの侵攻を受け、ウクライナのアントノフ航空が所有する世界最大の貨物機「An-225ムリーヤ」が破壊された。首都キエフ郊外のホストメリ空港で整備を受けていたところ、ロシア側ヘリによる攻撃に遭った。

An-225ムリーヤは世界最大の飛行機であり、全長は84メートル、翼を含めた全幅は88メートルを超える。米CNNは、航空の世界で親しまれるAn-25が「ほぼカルト的ともいえる存在であった」と述べ、破壊は「航空業界に不安と悲しみをもたらしている」と伝えている。

RTS38O9S.JPG新型コロナのための医薬品を中国からポーランドに運ぶAn-225ムリーヤ、2020年 REUTERS/Gleb Garanich


ウクライナの軍事産業を統括する国営防衛企業ウクロボロンプロム社の説明によると、An-225は2月24日、ホストメリ空港敷地内のアントノフ社施設にて修理と定期メンテナンスを受けていた。

空港が激しいミサイル攻撃にさらされるようになると、同機に対し退避指令が出された。しかし、当時はエンジン6発のうち1発が解体修理中であったことから、即座に空港を発つことは叶わなかった。その後、ヘリによる攻撃を受けた際、戦闘に巻き込まれたという。

再建への熱意

ウクライナの隣国・ルーマニアのニュースメディア『ZMEサイエンス』は、「このような航空機は史上1機が製造されたのみだが、今では修復が効かないほど完全に破壊された」と報じている。

しかし、ウクライナ側は今後、An-225の再建を試みる方針だ。その道のりは非常に困難となる可能性がある。ウクロボロンプロム社は「空港の管理権がロシアの占領軍に乗っ取られており、同機に接近できないことから、現状では機体の状況と修理の可能性、および修復コストを評価することは不可能となっています」と述べ、復旧計画すら立てられない状況だと説明している。

現時点で同社は、復元に30億米ドル(約3450億円)以上の費用を要し、相当な時間がかかるだろうと予測している。最大の航空機は、ウクライナの誇りであった。同社はまた次のように述べ、ロシア側の責任を追求する構えだ。

「ロシアがAn-225ムリーヤを破壊しましたが、同機は占領者の費用負担において修復されることになるでしょう。」「ウクライナはこの侵略国家に確実に補償させるため、ありとあらゆる努力を払っていきます。」

世界最大の飛行機 電車車両を丸ごと収容

An-225は、数々のユニークな記録を生み出した航空機であった。英BBCは過去、その貨物室の長さは、ライト兄弟の初飛行の距離よりも長いと紹介している。航空ニュースを伝える『エアロタイム・ハブ』によると、電車の車両を丸ごと収容することが可能だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

12月FOMCでの利下げ見送り観測高まる、モルガン

ワールド

トランプ氏、チェイニー元副大統領の追悼式に招待され

ビジネス

クックFRB理事、資産価格急落リスクを指摘 連鎖悪

ビジネス

米クリーブランド連銀総裁、インフレ高止まりに注視 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 4
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 5
    幻の古代都市「7つの峡谷の町」...草原の遺跡から見…
  • 6
    アメリカの雇用低迷と景気の関係が変化した可能性
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    【クイズ】中国からの融資を「最も多く」受けている…
  • 9
    EUがロシアの凍結資産を使わない理由――ウクライナ勝…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中