最新記事

バイデン政権

ロシアの脅威に目を奪われるのは間違い──最優先で警戒すべきは、やはり中国だ

AMERICA IS FOCUSING ON THE WRONG ENEMY

2022年2月22日(火)17時25分
ブラマ・チェラニ(インド政策研究センター教授)
バイデン・習近平会談

バイデンと中国の習近平主席の初のオンライン会談(昨年11月) JONATHAN ERNSTーREUTERS

<ウクライナ危機もあってバイデン政権はロシアの脅威に目を奪われているが、アメリカ最大のライバルは中国であり、中ロ関係の深化で中国はさらに強くなる>

民主主義陣営の国々は引き続きアメリカ主導の国際秩序が保たれることを望んでいる。だが「戦略的な過干渉」とも言うべきアメリカのウクライナ政策を見ると、この秩序の継続は危ういと言わざるを得ない。

国際社会におけるアメリカの指導的な地位を脅かしている第1の要因は国内の政治状況だ。党派政治と分断がアメリカの民主主義を劣化させ、長期的な視野に立つ政策立案を妨げている。外交政策では民主党と共和党で自国にとっての脅威の認識が全く異なる。2021年3月の世論調査によると、共和党員は中国が最大の脅威だと答え、民主党員はロシアを最も警戒していた。

バイデン米大統領が「ならず者国家」ロシアを対等なライバルと見なし、まともに対峙しているのはそのためかもしれない。アメリカの真のライバルは中国だ。中国の人口はロシアの10倍。経済規模もほぼ10倍で、防衛予算はロシアの約4倍に上る。

冷戦後、アメリカは勝利の余韻にどっぷり浸り、自国の優位を誇示することにうつつを抜かした。NATOをロシアの裏庭まで拡大しようとする一方で、第2次大戦後にドイツと日本を取り込んだようにロシアを民主主義陣営に取り込もう、とはしなかった。アメリカににらまれれば、必然的にロシアは軍備増強に走ることになる。

アメリカの指導者たちは冷戦後にもう1つ致命的なミスをした。中国の台頭を助け、旧ソ連以上に強大なライバルに仕立て上げたのだ。残念ながらアメリカはいまだにこの失敗から学ばず、ロシアと中国に加えて中東、アフリカ、朝鮮半島と極めて幅広い地域の問題に関心と資源を分散させている。

プーチンをたたけば習が得をする

その結果、アメリカは意図せずして中国の覇権拡大を助けることになった。中国を最も利するアメリカの政策は制裁の多用だ。

ロシアと中国は長年付かず離れずの関係を保ってきたが、14年のクリミア併合でアメリカがロシアに経済制裁を科すと、ロシアのプーチン大統領は戦略的に中国に擦り寄った。ウクライナ情勢がどう転んでも中ロ関係は深まるだろうが、ロシアがウクライナに侵攻しアメリカが厳しい制裁を科せば、中ロの絆は一層深まり、中国が多大な恩恵を受けるだろう。

バイデンが警告どおりロシアに強力な金融制裁を科せば、中国はロシアの銀行との取引を増やし、人民元の国際化を推進できる。またバイデンがロシアとドイツを結ぶ天然ガスのパイプライン「ノルドストリーム2」の稼働開始に待ったをかけたら、中国がロシア産ガスを爆買いするだろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

半導体への関税率、EUに「劣後しないこと」を今回の

ワールド

米政権、ハーバード大の特許権没収も 義務違反と主張

ビジネス

中国CPI、7月は前年比横ばい PPI予想より大幅

ワールド

米ロ首脳、15日にアラスカで会談 ウクライナ戦争終
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
2025年8月12日/2025年8月19日号(8/ 5発売)

現代日本に息づく戦争と復興と繁栄の時代を、ニューズウィークはこう伝えた

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた「復讐の技術」とは
  • 2
    職場のメンタル不調の9割を占める「適応障害」とは何か?...「うつ病」との関係から予防策まで
  • 3
    【クイズ】次のうち、「軍用機の保有数」で世界トップ5に入っている国はどこ?
  • 4
    これぞ「天才の発想」...スーツケース片手に長い階段…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    輸入医薬品に250%関税――狙いは薬価「引き下げ」と中…
  • 7
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医…
  • 8
    伝説的バンドKISSのジーン・シモンズ...75歳の彼の意…
  • 9
    イラッとすることを言われたとき、「本当に頭のいい…
  • 10
    今を時めく「韓国エンタメ」、その未来は実は暗い...…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を呼びかけ ライオンのエサに
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 6
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 7
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 8
    メーガンとキャサリン、それぞれに向けていたエリザ…
  • 9
    職場のメンタル不調の9割を占める「適応障害」とは何…
  • 10
    【クイズ】次のうち、「軍用機の保有数」で世界トッ…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 4
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 5
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 10
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中