最新記事

シリア

IS指導者「殺害」は無意味だった? 軍事力によるテロ組織「壊滅」の確率は7%

Are We Winning Yet?

2022年2月9日(水)17時16分
フレッド・カプラン(スレート誌コラムニスト)
ハシミの隠れ家

ISの指導者アブイブラヒム・ハシミが隠れていたシリア北西部の住居 U.S. DEPARTMENT OF DEFENSE-REUTERS

<米軍の急襲作戦で「イスラム国」指導者アブイブラヒム・ハシミが死亡。それでもイスラム過激派は不死鳥のようによみがえり、テロとの戦いには終りが見えない>

アメリカは今、20年ぶりに戦争をしていない。われわれは新しい時代に入ったのだ──。ジョー・バイデン米大統領がそう宣言したのは、昨年9月の国連総会でのこと。直前に、米軍がアフガニスタンから完全撤収したことをアピールしたかったのだろう。

だがバイデンは2月3日、前夜に米軍の特殊部隊が、シリア北西部で過激派組織「イスラム国」(IS)の指導者アブイブラヒム・ハシミの住居を急襲し、ハシミが自爆死したことを発表した。

アメリカが世界中で繰り広げるテロとの戦いは、全く終わっていないのだ。米軍の兵士やアドバイザーは、今も世界数十カ国に派遣されていて、すぐにも戦闘をできる状態にある(そしてしばしば実際に戦闘を交えている)。

ハシミが住むアパートを急襲した特殊部隊は、900人規模のシリア駐留米軍の一部だ。イラクにも約2500人の米軍地上部隊がいる。バイデンは戦争権限法に基づき議会に提出した報告書で、アメリカはテロとの戦いのために、世界各地の「複数の場所」に、「戦闘装備をした部隊を派遣している」と記載している。

ブラウン大学ワトソン国際問題研究所のステファニー・サベル上級研究員がまとめた報告書によると、米軍は2018〜20年に世界85カ国でテロとの戦いを展開してきた。

戦い方はいろいろだ。79カ国では現地軍の訓練を行い、41カ国では単独または現地軍と合同で、軍事演習を行った。7カ国では空爆またはドローンで爆撃をした。そして12カ国では、実際の戦闘に従事した(その後のアフガニスタン撤収で、現在は11カ国)。

軍事力の効果は限定的

だが、こうした活動が、テロ活動を阻止するかテロ組織を破壊する上で、どのくらい有効なのかは、十分検証されてこなかった。少なくとも、08年のランド研究所の報告書を読む限り、「ほとんどの場合、さほど有効ではない」が答えのようだ。

同研究所のセス・ジョーンズとマーチン・リビッキは、1968年から2006年まで648のテロ組織を調べた結果を、「テロ組織の終わり方」という報告書にまとめた。それによると、軍事力によってテロ組織が終焉を迎えたケースは7%にすぎなかった。

むしろ40%の組織は、警察と情報機関の協力によって息の根を止められた。43%は、政治的不満が解決すると平和的な政治組織に衣替えをするか解散し、テロ組織の10%が目標を達成して解散した。ブラウン大学のサベルの研究でも、同様の結果が得られたという。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

豪総選挙、与党が政権維持の公算 トランプ政策に懸念

ビジネス

三井物産、26年3月期純利益は14%減見込む 資源

ビジネス

25・26年度の成長率見通し下方修正、通商政策の不

ビジネス

午前のドルは143円半ばに上昇、日銀が金融政策の現
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 2
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    中居正広事件は「ポジティブ」な空気が生んだ...誰も…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 10
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中