最新記事
ISSUES 2022

アメリカを「金持ちの金持ちによる金持ちのための国」にした負の連鎖

AMERICA’S STRUGGLE AT HOME

2022年1月21日(金)18時45分
ジェフリー・サックス( コロンビア大学教授)
バイデン

議会の抵抗もあって十分な成果を上げらないバイデンを支持者はどう見るのか Kevin Lamarque-REUTERS

<金持ちと大企業を優遇し、公平な社会づくりをなおざりにしてきたアメリカ──そのツケを払うかどうかで未来は決まる>

米大統領選でジョー・バイデンがドナルド・トランプに僅差で勝利してから1年余り。今もアメリカは、先の見えない不安定な状態にある。

今後の米政治がどう転ぶか、可能性はいくらでも考えられる。バイデンが目指す経済的・政治的改革が徐々に進む可能性もあれば、トランプが2021年1月に画策したように、選挙や憲法に基づく統治がひっくり返される可能性もある。

アメリカの中核を蝕(むしば)む深刻な病こそ、この「トランプ運動」を招いた要因だ。しかし、その正体を正確に診断するのは簡単ではない。

それは、アメリカを人種や宗教、イデオロギーで分断する文化戦争なのか。過去に例のない富や権力の格差の拡大なのか。それともアメリカが自ら始め、主導してきた戦争が大失敗に終わり、一方で中国が台頭するなかで世界におけるアメリカの影響力が弱まり、国民の不満や国内の混乱を招いていることか。

私の見るところ、最も深刻な危機は政治に、つまりアメリカの政治システムが合衆国憲法の定める「一般の福祉の増進」をなおざりにしてきたことに端を発している。

過去40年の間にアメリカ政治は、中央政界とその周囲の人々が自分たちの都合だけで進めるものになってしまった。大企業の雇ったロビイストと金持ちの言い分ばかりが通り、国民の大多数を占める庶民は犠牲になった。

投資家のウォーレン・バフェットは06年に問題の核心を突く発言をしている。「階級闘争は存在する。それは確かだ。だが闘争を仕掛けているのも勝利を収めているのも、私の属する階級、つまり金持ち階級だ」

闘争の主戦場となっているのは首都ワシントン、尖兵を務めるのは企業の雇ったロビイストたちだ。武器は札束。連邦政府や議会向けのロビー費用は20年の数字で推計35億ドルに上り、選挙のための政治献金は同年の連邦選挙だけで推計144億ドルに達した。戦争をあおるプロパガンダを担当するのは、大富豪ルパート・マードック率いるメディア帝国だ。

西欧との悲しい「差異」

約2500年前、秩序的欠陥のために良い政府が悪い政府に変わる可能性があると説いたのは、ギリシャの哲学者アリストテレスだった。米政治も、企業のロビー活動や富豪からの選挙献金という「腐敗」を見直さない限り、同様の災厄に見舞われかねない。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ハマス、新たに人質1人の遺体を引き渡し 攻撃続き停

ワールド

トランプ氏、米国に違法薬物密輸なら「攻撃対象」 コ

ビジネス

米経済、来年は「低インフレ下で成長」=ベセント財務

ビジネス

トランプ氏、次期FRB議長にハセット氏指名の可能性
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    大気質指数200超え!テヘランのスモッグは「殺人レベル」、最悪の環境危機の原因とは?
  • 2
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が猛追
  • 3
    若者から中高年まで ── 韓国を襲う「自殺の連鎖」が止まらない
  • 4
    海底ケーブルを守れ──NATOが導入する新型水中ドロー…
  • 5
    「世界一幸せな国」フィンランドの今...ノキアの携帯…
  • 6
    もう無茶苦茶...トランプ政権下で行われた「シャーロ…
  • 7
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 8
    22歳女教師、13歳の生徒に「わいせつコンテンツ」送…
  • 9
    【香港高層ビル火災】脱出は至難の技、避難経路を階…
  • 10
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 8
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中