最新記事

米社会

インターンなしには企業も政府も存続不能、「ブラックすぎる」アメリカの実情

WASHINGTON RUNS ON INTERNS

2022年1月14日(金)17時33分
ロビー・グラマー(フォーリン・ポリシー誌記者)、アナ・ウェバー(フォーリン・ポリシー誌インターン)

そして、議会のインターンシップが、優秀な学生ではなく、能力は劣るが強力なコネを持つ学生に回されたり、学生たちがインターンをしつつ生活費を稼ぐことに疲れ果ててしまったり、経済的に無理だからと、外交政策分野でのインターンシップに応募することさえ諦めてしまうのを見てきた。

「無給から有給へのシフトが少しずつ進んでいるのは間違いない」と、フレッチャーは語る。それでも、アメリカン大学の学生向け求人案内に掲示されるインターンシップの半分は、無給とされている。

なかなか変化が起こらない理由の1つは、経済的に余裕があるから「無給で働いてもいい」という学生がコンスタントに供給されるからだ。それに名門シンクタンクやNGO、そして国務省などの行政機関は、「うちで働けるなんて名誉だろう? 履歴書に国務省で働いたと書けるだけでも、立派な報酬だ」と考えがちだと、フレッチャーは指摘する。

インターンは法的な地位も曖昧だ。1938年公正労働基準法は、営利企業が従業員に仕事の対価を支払うことを義務付けている。だが、その人物がインターンだと雇用主が立証できれば、支払い義務はない。また、会社がその人物の働きから得る利益よりも、その人物がインターンとして得る経験やスキルのほうが価値が高いと主張すれば、無給を正当化することもできる。第一、行政機関は営利企業ではないから、公正労働基準法の定義が当てはまらない。

こうした法的地位の曖昧性は、ワシントンの一部行政機関や連邦議会が、インターンシップを強力なコネを持つ学生で埋めることも可能にしている。議員事務所が大口献金者の子弟をインターンに採用するのは珍しくないと、3人の議会関係者は取材に対して語った。

誰も実態を把握していない

連邦政府が、議会や省庁におけるインターンシップの実態をどのくらい把握しているかも分からない。少なくともワシントン周辺では、インターンの数を記録している政府機関は皆無のようだ。労働省統計局とワシントン雇用サービス局は、こうした記録を取っていないと認めた。

大学を中退したベラには、インターン時代の忘れられない思い出がある。「何より鮮明に覚えているのは、議事堂の廊下で、ふと周囲を見回したとき、私のような顔立ちの人は1人もいなかったことだ。用務員以外はね」。ベラはコロンビアで生まれ、アメリカで育った。

「現実に目覚めた瞬間だった。議会は、私たちが医療や教育のためにいくら蓄えておくべきかといったことを決める場所なのに、アメリカ社会の構図を全く反映していなかった」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ユーロ相場が安定し経済に悪影響与えないよう望む=E

ビジネス

米製薬メルク、肺疾患治療薬の英ベローナを買収 10

ワールド

トランプ氏のモスクワ爆撃発言報道、ロシア大統領府「

ワールド

ロシアが無人機728機でウクライナ攻撃、米の兵器追
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 3
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、「強いドルは終わった」
  • 4
    「ヒラリーに似すぎ」なトランプ像...ディズニー・ワ…
  • 5
    犯罪者に狙われる家の「共通点」とは? 広域強盗事…
  • 6
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 7
    名古屋が中国からのフェンタニル密輸の中継拠点に?…
  • 8
    自由都市・香港から抗議の声が消えた...入港した中国…
  • 9
    人種から体型、言語まで...実は『ハリー・ポッター』…
  • 10
    「けしからん」の応酬が参政党躍進の主因に? 既成…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 3
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸せ映像に「それどころじゃない光景」が映り込んでしまう
  • 4
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、…
  • 5
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 6
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 7
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 8
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 9
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 10
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 4
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 5
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 6
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 7
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中