最新記事

中央アジア

次のウクライナに? カザフスタン情勢を、世界がこれほど憂慮する理由を解説

Will Kazakhstan Be Next?

2022年1月12日(水)17時47分
ケーシー・ミシェル(ジャーナリスト)

では果たしてカザフスタンは、旧ソ連から独立した国家の領土をロシアが改めて制圧するという「ウクライナ型」の分裂パターンをたどるのか。ロシアはカザフスタン北部を占領することで、あえて世界を挑発するつもりなのか。

答えは、おそらくノーだ。少なくとも近い将来にはあり得ない。それを裏付ける理由は数多くある。

第1に今回のカザフスタンの騒乱と、旧ソ連からの独立国の地域を制圧したロシアのパターン(08年のジョージアや14年のウクライナ)の間には明確な違いがある。ジョージアやウクライナとは違って、カザフスタン当局とデモ隊はロシアとの経済的・軍事的関係を断つことをほとんど考えていない。

カザフスタンの騒乱は目下のところ、20年のベラルーシの民主化運動に似ている。民主主義や透明性、野党勢力を長年にわたって抑圧してきた「泥棒政治」への抵抗だ。

国際的な広がりは全くない。加盟しているCSTOやユーラシア経済同盟などの機関から離脱しようという意思も、ほとんどないようだ。ジョージアやウクライナとは異なり、EUやNATOへの加盟を急ぐ気配もない。

第2に、名目上はカシムジョマルト・トカエフ大統領が率いるカザフスタンの指導層は、狂信的な愛国主義を政権の支えにしようという姿勢をほとんど見せていない。公式には19年に終わりを告げたナザルバエフ時代の数少ないプラス面の1つは、民族間の融和に力を入れたことだ。就任から3年近くたつトカエフも、この路線を継承している。

カザフ語の表記をロシア語で使われるキリル文字からラテン文字に切り替えることを決め、ロシアのウクライナにおける領有権の主張を認めない姿勢を示すなど、カザフスタン政府は主権を強化する政策を緩やかに打ち出している。しかしカザフスタンのナショナリズムの高まりへの懸念は、ロシア系住民の権利と安全を守るためにロシア政府が北部地域の占領を発表するほど強くはない。民族間の暴力はロシアが介入する理由になり得るが、ロシア系住民が標的になっている兆候は皆無だ。

これまでの前提は一夜で崩れ去った

だがこうした現実があるからといって、安心できるわけではない。カザフスタンが主権国家だという前提は、指導層が危機を打開するためにロシア軍部隊を招き入れたことから、ほぼ一夜で崩れ去った。

モスクワでは、プロパガンダを広める者たちが後に続いた。ロシアのニュース専門テレビ局RTのマルガリータ・シモニャン編集長は、すぐにカザフスタン当局への要求リストを発表。ロシアのクリミア領有を認め、キリル文字を維持し、ロシア語を第2公用語に昇格させるという内容だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

カナダの経済構造改革は数年単位、「痛み伴う」と中銀

ビジネス

カナダ、EV義務化を撤回 購入奨励策と排出規制で普

ビジネス

日経平均は続落で寄り付く、米ハイテク株安が重し 足

ワールド

メキシコ中銀が金利据え置き、インフレ目標回帰見通し
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプの帝国
特集:トランプの帝国
2026年2月10日号(2/ 3発売)

南北アメリカの完全支配を狙うトランプの戦略は中国を利し、世界の経済勢力図を完全に塗り替える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新世論調査が示すトランプ政権への評価とは
  • 2
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近したイラン製ドローンを撃墜
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    「右足全体が食われた」...突如ビーチに現れたサメが…
  • 5
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染…
  • 6
    「反トランプの顔ぶれ」にMAGAが怒り心頭...グリーン…
  • 7
    ユキヒョウと自撮りの女性、顔をかまれ激しく襲われ…
  • 8
    エプスタインが政権中枢の情報をプーチンに流してい…
  • 9
    「エプスタインは悪そのもの」「悪夢を見たほど」──…
  • 10
    関税を振り回すトランプのオウンゴール...インドとEU…
  • 1
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 2
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から脱却する道筋
  • 3
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「副産物」で建設業界のあの問題を解決
  • 4
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染…
  • 5
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵…
  • 6
    「出禁」も覚悟? ディズニーランドで緊急停止した乗…
  • 7
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 8
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れ…
  • 9
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 10
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 5
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 6
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 7
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 8
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 9
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 10
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中