最新記事

中央アジア

次のウクライナに? カザフスタン情勢を、世界がこれほど憂慮する理由を解説

Will Kazakhstan Be Next?

2022年1月12日(水)17時47分
ケーシー・ミシェル(ジャーナリスト)

その後カザフスタン経済が成長を遂げ、ロシアの指導層との関係が緊密になったこともあって、ナショナリストの主張は下火になった。だがロシアがウクライナに侵攻したのを見て、カザフスタンは震え上がった。当時のナザルバエフ大統領は隣国・中国の習近平(シー・チンピン)国家主席に対し、カザフスタンの安全保障を「確約」するよう頼んだという。

国境問題を再燃させたのは、もちろんウラジーミル・プーチン現大統領だ。14年にクリミアを併合した直後、プーチンは若者との会合に出席。参加者から、ナザルバエフが去ればカザフスタンも「ウクライナと同じ道をたどるのか」と尋ねられると、「カザフ人が自らの国を持ったことは一度もない」と答えた。

その直後、カザフスタン政府はプーチンの発言に反論する形で、カザフ人の国家であるカザフ・ハン国の建国550周年を祝う計画を発表した。それでも、カザフスタンの領土保全問題というパンドラの箱が開いたことは確かだった。

北部地域に生まれ育ったロシア系住民は、いつしかカザフスタンのことを「居住区」や「仮想国」と呼ぶようになった。旧ソ連の政治家がつくり上げた「継ぎはぎの国」でしかないという意味合いだ。

カザフはロシアと対等ではない

こうした主張には、あからさまな排他主義や差別主義が透けて見える。カザフスタンは独立した主権国家にふさわしくなく、ロシアと対等な存在ではないというのだ。

現地の分離独立の機運については調査や報道がほとんどなく、実情を知るにも断片的な伝聞情報に頼らざるを得ない。ただし確かなのは、カザフスタンの国家分裂の可能性が無視できないということだ。特にロシア政府は今、国内の支持率低下を食い止めるための「仕掛け」を探している。

ジャーナリストのジョアナ・リリスがカザフスタンに関する18年の著書に書いたように、現地に分離独立への不安がないとは決して言えない。同時に分離賛成派が少ないとも言えない。リリスは数年前、ロシア系住民が大多数を占めるロシア国境付近の町リッデルで、調査回答者の約4分の3がロシアの一部になることを支持していたと伝えた。

ロシアの国会議員も同意見だ。特に近年は、ロシアがカザフスタン北部を領有することを正当化しようとする傾向が目立つ。ロシア議会教育科学委員会の委員長は最近、カザフスタン北部はロシア人が植民地化するまで、ほぼ「無人地帯」だったと述べた。別の議員は、カザフスタンはロシアの土地を「借りている」だけだと主張した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

日中双方と協力可能、バランス取る必要=米国務長官

ビジネス

マスク氏のテスラ巨額報酬復活、デラウェア州最高裁が

ワールド

米、シリアでIS拠点に大規模空爆 米兵士殺害に報復

ワールド

エプスタイン文書公開、クリントン元大統領の写真など
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 4
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 5
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 6
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 7
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 8
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 9
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 10
    ロシア、北朝鮮兵への報酬「不払い」疑惑...金正恩が…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中