最新記事

韓国

「北朝鮮が人間らしい生活だった」 脱北者が軍事境界線越えて北朝鮮入り、軍は気づかず

2022年1月12日(水)11時20分
佐々木和義

南北国境の警備隊は気づかず

さらなる問題は国境の警備態勢だ。南北国境のいわゆる38度線には、韓国側2キロ、北朝鮮側2キロの非武装地帯(DMZ)が設定されている。南北のいずれにも鉄条網が設置され、民間人はもちろん、軍人の立ち入りも禁止されるが、一面が地雷原で、立ち入ることは事実上、不可能だ。

韓国側の鉄条網は高さ3メートルで、鉄柵を切断したり、荷重がかかったりすると警報が鳴るセンサーが設置されている。DMZが設定された1953年以降、人の立ち入りが禁止されていることから自然の宝庫となっており、野生動物による警報と考えて見過ごした可能性が指摘されている。

DMZの見過ごし事件は、たびたび起きている。2008年4月27日午後4時頃、板門店の近くで、北朝鮮軍の将校が白旗を振って亡命意思を表明したが、韓国軍は気づかなかった。将校は拳銃を撃ったが反応はなく、将校は監視所まで歩いて扉をノックした。

2012年にも同様の事件があった。11月2日、北朝鮮の兵士が韓国側の鉄柵を越えたが、韓国軍は北朝鮮兵士が警備隊の建物の窓をノックするまで気づかなかった。今回、越北したキム氏は2020年11月、軍事境界線の鉄柵を越えて入国したが、身柄を確保するまで10時間以上かかった。

国会の国防委員会全体会議で、ずさんな警備に対し、与党議員は「いつから南北間の往来が自由になったのか。(越北を見逃した) 第22師団に行けば南北の離散家族も再会できそうだ」と皮肉り、野党・国民議員は「スパイが行き来している」と批判した。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

豪首相、AUKUSの意義強調へ トランプ米大統領と

ワールド

イラン、イスラエル北部にミサイル攻撃 「新たな手法

ビジネス

中国粗鋼生産、5月は前年比-6.9% 政府が減産推

ワールド

中国の太陽光企業トップ、過剰生産能力解消呼びかけ 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 7
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 9
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中