最新記事

中国

【鼎談】新型コロナ流行から2年、パンデミックは中国人を変えた──のか

2022年1月11日(火)14時23分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

高口:もう一つ、驚いたのはデマ対策です。中国といえば、お上が発信する情報を信用せず、口コミで広がるデマや都市伝説が猛烈に蔓延するお国柄です。SARSではお酢をわかして空間殺菌、ヤクルトに予防効果とかさまざまなデマが広がりましたし、新型インフルエンザではニンニクに予防効果があるという噂でニンニクバブルが起きたこともありました。

今回はデマもありましたが、そこまで大きく拡散しなかった印象です。なぜかと考えてみると、中国はよく知られているとおり、習近平体制の発足以来、ネット検閲や世論統制を強化してきました。デマが広がる風土や政府への不信感は今も根強く残っていて、「政府に怪しげなコロナ予防の漢方薬をわたされて、飲むように強要されている。辛い」とか、軽くバズるネタは多いんですが、強力なネット検閲パワーで沈静化されています。

山形:本書では、デマ対策に関連して「正能量(ポジティブエネルギー)」について取りあげています。デマやフェイクニュース、あるいは中国共産党にとって不都合な話を取り締まるだけではなく、政府を支持するような意見を増やし、社会をポジティブにとらえるような世論を作ろうという試みです。

それが昨年のアイドル規制、子どもたちにお金を浪費させるアイドルオーディション番組はダメだとか、女々しい男性アイドルは禁止とかそういうところとも地続きになっている。いろんな変なものがつながっている様子は、なかなか面白い。笑いながら読ませてもらった部分です。

高口:感染拡大をどう封じ込めたのかだけではなく、デマ対策を含めた世論統治やその歴史的背景も描きたいというのが一つのテーマでした。

山形:非常に面白かったのですが、私や高須さんがこんなに面白がっているということは、一般の関心とはかけ離れた世界に入っていることを意味しているのかもしれません(笑)。というのも、この本を書店のどの棚に並べるのかは結構悩ましい。アンチ中国本の棚でもなければ、中国のテクノロジーはすごいという話とも一線を画している。

そもそも、中国について「悪の帝国だぞ」だとか「ハイテクすごい」だとか、一面的な見方だけでは説明しきれないので、その意味ではバランスの取れた見方ではありますが、説明しにくい本であることは間違いないですね(笑)。

高口:いろんな視点を盛り込んだ本なので、コロナ対策に興味がある方も、中国社会に興味がある方にも手に取っていただきたいのですが、加えて言うと、DX(デジタル・トランスフォーメーション)の視点でも、中国の事例は興味深いことは強調しておきたいです。

実際の取り組みを見ていると、「日本企業がDXするためにはまずここから」と言われてるような、デジタル化とデータ連携をきわめて実直に進めていることがよくわかります。その意味では日本にとっても参考になるところが多々ありますし、一方で行政DXをがんがん進めていく上で生じる問題点についても先取りしている部分もあります。「デジタル敗戦」と言われる日本の現状を打破するためにも、中国の取り組みは知っておくべきでしょう。

中国「コロナ封じ」の虚実――デジタル監視は14億人を統制できるか
 高口康太 著
 中公新書ラクレ
 2021年12月9日発売

(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシア、ウクライナ東部ルハンスク州全域を支配下に 

ワールド

タイ憲法裁、首相の職務停止命じる 失職巡る裁判中

ビジネス

仏ルノー、上期112億ドルの特損計上へ 日産株巡り

ワールド

マスク氏企業への補助金削減、DOGEが検討すべき=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 2
    ワニに襲われ女性が死亡...カヌー転覆後に水中へ引きずり込まれる
  • 3
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とんでもないモノ」に仰天
  • 4
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 5
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 6
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 7
    「パイロットとCAが...」暴露動画が示した「機内での…
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    顧客の経営課題に寄り添う──「経営のプロ」の視点を…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 5
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 6
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 7
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 8
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 9
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 10
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中