最新記事

宇宙

「金星の雲に生命体が存在しうる」との仮説が示される

2021年12月28日(火)16時23分
松岡由希子

「理論上、金星の雲に生命体が存在しうる」NASA/Jet Propulsion Laboratory-Caltech

<濃硫酸の酸性雲で覆われた金星で生命体が生存可能な空間を雲のなかにつくりだすという仮説が発表された>

主に二酸化炭素からなる厚い大気があり、表面温度が平均460度となる金星は、濃硫酸の酸性雲で覆われた極めて過酷な環境だ。しかしこのほど、「理論上、金星の雲に生命体が存在しうる」との説が示された。

金星では生成されないはずのアンモニアが検出された

米マサチューセッツ工科大学(MIT)、英カーディフ大学、英ケンブリッジ大学の研究チームは、金星の酸性環境を中和し、生命体が生存可能な空間を雲のなかにつくりだす化学経路を特定し、これに基づく仮説を2021年12月28日付の「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」で発表した。

金星の大気には、酸素がわずかながら存在し、水蒸気が想定以上に多く、球状の硫酸の液滴とは異なる非球状の粒子が存在するといった不可解な異常が長年観測されてきた。

なかでも最も不可解なのは、1970年代にソビエト連邦の金星探査機「ベネラ8号」やアメリカ航空宇宙局(NASA)の「パイオニアビーナス探査機」によって暫定的に検出されたアンモニアの存在だ。アンモニアは金星での既知のいかなる化学プロセスでも生成されない。

研究論文の責任著者でマサチューセッツ工科大学のサラ・シーガー教授は「金星にアンモニアは存在しないはずだ。アンモニアは水素と窒素の化合物だが、金星に水素はほとんど存在しない。金星の環境下で存在しないはずの気体が存在するとしたら、生命体によって生み出された可能性を疑わざるを得ない」との見解を示す。

「生命体がそこに存在し、生息環境を変えているかもしれない」

研究チームは、一連の化学プロセスをモデル化し、「アンモニアが存在するとしたら、アンモニアが硫酸の液滴を中和する化学反応を次々と促し、金星の雲で観測された異常についてもほぼ説明できる」ことを示した。

雲にアンモニアがあれば、これが硫酸の液滴に溶けて生命体が生存可能な状態に中和する。その結果、雲の酸性度は、一部の生物が生息する地球の極限環境と変わらなくなる。

MIT-Venus-Clouds-01a-press_0.jpeg

金星の雲の中の生物のイメージ (J. Petkowska)

また、研究チームは、アンモニアの発生源について「稲光や火山噴火ではなく、生命体なのではないか」と考察している。研究チームの分析によると、稲光や火山噴火、隕石衝突では十分なアンモニアを生成できないためだ。生命体であれば可能かもしれない。

実際、ヒトの胃の中には、アンモニアを生成して酸性度の高い環境を中和し、生息しやすくする微生物が存在する。シーガー教授は「私たちが知る限り、金星の雲の液滴の中で生存可能な生命体はない」としたうえで「重要なのは、生命体がそこに存在し、生息しやすくなるように生息環境を変えているかもしれないという点だ」と指摘する。

シーガー教授らは、金星の大気中に生息するかもしれない生命体を探査する民間の金星探査ミッション「ビーナス・ライフ・ファインダー・ミッション」のもと、2023年以降、金星に探査機を送り込み、この仮説を検証していく方針だ。

Are There Aliens on Venus? | Planet Explorers | BBC Earth


Why Venus May Have Life with Dr. Janusz Petkowski


今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

ゼレンスキー氏「米国の和平案推し進める用意」、 欧

ビジネス

米CB消費者信頼感、11月は88.7に低下 雇用や

ワールド

ウクライナ首都に無人機・ミサイル攻撃、7人死亡 エ

ビジネス

米ベスト・バイ、通期予想を上方修正 年末商戦堅調で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 3
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後悔しない人生後半のマネープラン
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    放置されていた、恐竜の「ゲロ」の化石...そこに眠っ…
  • 7
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 8
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 9
    使っていたら変更を! 「使用頻度の高いパスワード」…
  • 10
    トランプの脅威から祖国を守るため、「環境派」の顔…
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 3
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 4
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 10
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦…
  • 8
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中