最新記事

日本外交

北京冬季五輪の閣僚級派遣見送り 日米首脳会談にらみ岸田首相が決断

2021年12月24日(金)18時22分
岸田文雄首相

政府は来年2月に開会する北京五輪・パラリンピックに閣僚級の政府関係者の派遣を見送ると正式に表明した。早期訪米による首脳会談を実現するために岸田文雄首相が決断した格好だ。Toru Hanai - REUTERS

政府は来年2月に開会する北京五輪・パラリンピックに閣僚級の政府関係者の派遣を見送ると正式に表明した。中国の人権問題を批判する米英の政治的ボイコットに足並みをそろえた格好だ。自民党内には対中強硬派も多く、早期訪米による首脳会談を実現するために岸田文雄首相が決断した格好だ。

閣僚ではないが政府関係者

米国が新疆ウイグルでの人権問題などを理由に北京五輪に政府関係者を覇権しない政治的ボイコットを行ったのは6日。政権内でも、閣僚派遣は見送る一方、閣僚ではないが政府関係者ではあるスポーツ庁の室伏広治長官を派遣する方向で模索が進んだ。7月の東京五輪開会式には中国から苟仲文(こう・ちゅうぶん)国家体育総局長が出席しており、日本側の返礼として適任との見方があったためだ。外務省や首相に近い政府関係者らは室伏氏の派遣について「判断に必要な情報はすべて提供している。あとは首相の判断次第」と見ていた。

複数の政府・与党関係者は、首相が室伏氏の派遣見送りを最終的に決めたのは早期に日米首脳会談を実現するためだという。岸田首相は就任以来、早期の訪米による対面での首脳会談実現を目指して来た。しかしバイデン政権側は大型歳出法案をめぐる内政混乱などで十分な時間が取れないとし、これまで日程が確定してきていない。

「バイデン側は内政不振を外交で打開しようとしているのに、日本側が(ボイコットに同調せず)協力的でないとみている」(与党関係者)との指摘もあった。このため、「五輪対応でも米国と歩調を合わせるのが必要と判断した」(外交担当の政府関係者)という。

対中配慮も

ただ、政府は室伏氏ら閣僚級の派遣は見送るものの、ボイコットとの表現は避けた。自民党内や経済界には中国との関係を重視し、玉虫色の決着を望む声もあった。経団連の十倉雅和会長は20日の定例記者会見で、「国益を考えて落としどころを探って、それが曖昧だといわれても良いと思う。戦略の問題だ」と述べた。

元自民党職員で政治評論家の田村重信氏は「岸田首相は、対中強硬派の安倍晋三元首相を23日に訪問した際に、今回の対応方針を伝えたのだろう。対米、対中双方に配慮した格好だ」と評価する。

一方、政府関係者ではない東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の橋本聖子会長や日本オリンピック委員会(JOC)の山下泰裕会長などの訪問は早期に決まったもようだ。橋本氏は国際オリンピック委員会(IOC)総会出席のため北京を訪問する必要があり、訪中は五輪目的でないとの理由も立つためだ。

中国外務省の趙立堅報道官は24日の定例会見で、北京冬季五輪について、日本からの五輪関係者や選手の参加を歓迎すると述べた。ただ、時事通信によると、同報道官は政府関係者の派遣見送りについては「スポーツを政治化しないという約束を実行するよう日本側に促す」と不快感を示したという。

岸田首相は24日夕、北京五輪への橋本氏らの派遣について、中国の人権問題なども総合的に勘案し、自ら判断したと語った。

(竹本能文 編集:石田仁志)

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2021トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【話題の記事】
・中国の不動産バブルは弾けるか? 恒大集団の破綻が経済戦略の転換点に
・中国製スマホ「早急に処分を」リトアニアが重大なリスクを警告
・武漢研究所、遺伝子操作でヒトへの感染力を強める実験を計画していた



今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日銀保有国債は高水準、イールドカーブに作用続ける=

ワールド

中国、フィリピン船を「追い払った」と発表 スカボロ

ワールド

アジア太平洋、軟着陸の見込み高まる インフレ低下で

ビジネス

暗号資産の現物ETF、香港で取引開始 アジア初
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「瞬時に痛みが走った...」ヨガ中に猛毒ヘビに襲われ…

  • 8

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 9

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 10

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 9

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    「誰かが嘘をついている」――米メディアは大谷翔平の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中