最新記事

櫻井翔と戦争の記憶

『櫻井翔と戦争の記憶』特集に掲載、戦没した親族の「軍歴」を知る方法

2021年12月20日(月)18時30分
小暮聡子(本誌記者)

3) 照会に要する時間/回答内容

厚労省社会・援護局 援護・業務課調査資料室の担当者に取材したところ、厚労省への申請件数は月ごとに差があり、8月15日の終戦日前後から10月にかけては多くて月300件ほど、通常は月100件強だという。調査資料室では海軍と陸軍あわせて、資料班の職員約10人体制で対応しており、回答までにかかる時間は最短で1カ月、長くて(現状)3カ月程度。ただし申請件数が激増すると、受付順に処理しているためさらに時間を要する可能性があるという。

照会書類は、士官(将校)、下士官、兵、階級に限らず全ての方についての履歴が残っているわけではなく、全くない人もいるそうだが、残っていれば同じように保管されている。基本的には従軍した年月が長ければ長いほど記載事項(履歴)が多くなり、期間が短ければ少なくなる。また、部隊の異動や乗艦した船舶が多ければ、記載事項も多くなる。階級が上がれば発令日の記載も多くなるという。

厚労省への申請から約2カ月後、筆者の父の元にも「旧海軍の履歴等について(回答)」と題した文書と原表コピーが届き、戦後76年間もこうした記録が保管されていたことに驚いた。これらの資料は、終戦時の旧陸軍省と海軍省から、第一・第二復員省を経て復員庁、1948年には引揚援護庁、1954年には厚生省の内局である引揚援護局となり、旧厚生省に全ての業務が引き継がれたという。

現在の厚労省社会・援護局に至るまで、戦没者一人一人の人事記録が保管されていたというのは遺族にとっては有難い限りである。なお、ある戦史研究者は、生きて帰って来た親族のほうが、入隊時と終戦時の軍歴しか分からないなど、戦没者より調査しづらいこともあるとも言っていた。また陸軍の場合、都道府県によっては兵籍簿を焼却せよという命令を真面目に実行したところもあり、残っていないケースもあるという。

筆者の戦没した親族の墓碑には、戦没時の海軍の階級、戦没年月日と大まかな戦没場所が刻まれていたが、どのような経緯で亡くなったのかは今回調査するまで親族含め誰も知らなかった。だが、厚労省からの「戦没状況について」の回答と、「履歴原表」によって最後の人事発令が判明し、それを基に、どこでどのような作戦に従事中に戦没したのかを知ることができた。

今回の特集にも協力いただいた戦史研究家で海軍兵学校77期生の菅原完氏は、戦死公報だけで遺骨も戻らなかった海軍軍人たちについて調べ、それらの調査結果を『知られざる太平洋戦争秘話~無名戦士たちの隠された史実を探る』(2015年、光人社)と、『無名戦士の戦い~戦死公報から足取りを追う』(2021年、光人新社)として上梓した。

『無名戦士の戦い』のまえがきには、こうある。「戦争がなかったならば、海軍の『カ』の字も知らず別の道を歩んだことであろう若者たちが、希望のある将来を無惨にも断ち切られ、その正確な最期すら肉親には伝わらず、『某月某日、某方面にて戦死』という一片の紙切れで知らされるだけというのは、余りにも残酷といえないだろうか。」

菅原氏は、92歳となる今も戦没者の調査を続けている。2021年、少なくとも「知る」ための手段は残されている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米政府機関の一部閉鎖始まる、党派対立でつなぎ予算不

ビジネス

日産が「エクステラ」復活と売れ筋2車種の強化検討、

ワールド

G7財務相、ロシアへの圧力強める姿勢を共有=加藤財

ビジネス

米ADP民間雇用、9月ー3.2万人で予想に反し減少
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
2025年10月 7日号(9/30発売)

投手復帰のシーズンもプレーオフに進出。二刀流の復活劇をアメリカはどう見たか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 2
    ウクライナにドローンを送り込むのはロシアだけではない...領空侵犯した意外な国とその目的は?
  • 3
    【クイズ】身長272cm...人類史上、最も身長の高かった男性は「どこの国」出身?
  • 4
    「元は恐竜だったのにね...」行動が「完全に人間化」…
  • 5
    なぜ腕には脂肪がつきやすい? 専門家が教える、引…
  • 6
    女性兵士、花魁、ふんどし男......中国映画「731」が…
  • 7
    通勤費が高すぎて...「棺桶のような場所」で寝泊まり…
  • 8
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 9
    コーチとグッチで明暗 Z世代が変える高級ブランド市…
  • 10
    10代女子を襲う「トンデモ性知識」の波...15歳を装っ…
  • 1
    トイレの外に「覗き魔」がいる...娘の訴えに家を飛び出した父親が見つけた「犯人の正体」にSNS爆笑
  • 2
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 3
    日本の小説が世界で爆売れし、英米の文学賞を席巻...「文学界の異変」が起きた本当の理由
  • 4
    ウクライナにドローンを送り込むのはロシアだけでは…
  • 5
    こんな場面は子連れ客に気をつかうべき! 母親が「怒…
  • 6
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
  • 7
    【クイズ】世界で1番「がん」になる人の割合が高い国…
  • 8
    コーチとグッチで明暗 Z世代が変える高級ブランド市…
  • 9
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 10
    高校アメフトの試合中に「あまりに悪質なプレー」...…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 4
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 5
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 6
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 7
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 8
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 9
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 10
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中