最新記事

南シナ海

インドネシア・マレーシアの海洋開発に中国が圧力 五輪ボイコット論争の陰で南シナ海進出を強化

2021年12月19日(日)15時44分
大塚智彦
中国の『九段線』とインドネシアのEEZが交差する海域

写真で指差している場所が中国の『九段線』とインドネシアのEEZが交差するエリア。ロイター/Beawiharta

<世界が北京冬季五輪の外交的ボイコットの是非に向くなか、中国の覇権主義は安いところを知らず──>

インドネシアやマレーシアが自国の排他的経済水域(EEZ)で実施している海底石油・天然ガス資源の掘削作業に対して中国が中止を求めたり、一方的に海洋資源調査を実施するなど、南シナ海で新たな緊張を生み出していることがわかった。

いずれも中国が一方的に海洋権益の及ぶ範囲として主張している『九段線』に関わるもので、同海域で中国側があえて権益争いを激化する動きを見せていることで極めて挑戦的な動きといえる。

南シナ海は米国とその同盟国である日英豪インドなどが「航行の自由、飛行の自由が保障された自由で開かれたインド太平洋」を唱える海域と重複している。中国がインドネシアやマレーシアと関係緊張化することは、米国との関係悪化も絡み、南シナ海はここへきて一層「波高し」となっている。

インドネシアへの不満と焦燥が背景か

中国政府は在ジャカルタの中国大使館を通じてインドネシア外務省に文書を送り、南シナ海の南端であるインドネシア領ナツナ諸島北方海域でのインドネシアによる石油・天然ガス資源堀削を中止するよう求めた。ロイター通信が12月1日に伝えた。

同海域はインドネシアのEEZに対し、中国が一方的に「自国の海洋権益が及ぶ『九段線』と重複する海域がある」としてかねてからインドネシアに2国間協議での平和的解決を求めている。

これに対しインドネシア側は「同海域で中国との間に協議するような問題は存在しない。従って2国間協議の必要はない」(ルトノ・マルスディ外相)として一切の妥協の余地をみせない強い姿勢をとってきた。

こうしたインドネシアの強い姿勢に不満を高めた中国側が今回掘削の中止を外交ルートで求めたことになるが、背景にはインドネシアへの不満と焦りが中国側にあるとみられている。

『九段線』に関してはフィリピンの提訴を受けてオランダ・ハーグの仲裁裁判所が2016年に「国際法などいかなる法的な根拠はない」と認定しているが、中国側はこれを認めない頑なな姿勢を崩していない。

マレーシア、フィリピンにも「圧力」

また中国は南シナ海を巡ってマレーシア、ベトナム、フィリピンなどとも領有権争いを抱えている。いずれも各国のEEZに対して中国が『九段線』を理由に「中国の領海ないし海洋権益が及ぶ海域」として対立しているのだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

セルビアはロシアとの協力関係の改善望む=ブチッチ大

ワールド

EU気候変動目標の交渉、フランスが首脳レベルへの引

ワールド

米高裁も不法移民送還に違法判断、政権の「敵性外国人

ビジネス

日銀総裁、首相と意見交換 「政府と連絡し為替市場を
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 2
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 3
    「見せびらかし...」ベッカム長男夫妻、家族とのヨットバカンスに不参加も「価格5倍」の豪華ヨットで2日後同じ寄港地に
  • 4
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 5
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が…
  • 6
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 7
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 8
    Z世代の幸福度は、実はとても低い...国際研究が彼ら…
  • 9
    トレーニング継続率は7倍に...運動を「サボりたい」…
  • 10
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 4
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 5
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 6
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 7
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 8
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 9
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 10
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 1
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 2
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 3
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大ベビー」の姿にSNS震撼「ほぼ幼児では?」
  • 4
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 5
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 9
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中