最新記事

宇宙

長期隔離実験で、火星移住には地球への反乱リスクがあることが判明

2021年12月13日(月)15時30分
青葉やまと

能動的に判断を行うこと自体は好ましいが、地球側とのコミュニケーションを疎かにしはじめたのは危険な兆候だ。

論文の共著者でありロシア科学アカデミーに所属するディミトリー・シェヴド博士は、仮にこの傾向が進めば、火星入植者から地球への反乱もあり得るとして警鐘を鳴らしている。実際の火星入植後、クルーが実験時以上に高度な自律性を獲得した場合、「彼らは外部の統治機構からの完全な独立を図るかもしれません。つまり、火星人が地球人に反乱を起こす可能性があります」と博士は述べる。

CNETはこの見解を取り上げ、『火星コロニーの模擬実験:惑星間の密なコミュニケーションなしではクルーが反乱に出る可能性』として記事にしている。

インディペンデント紙も論文の内容を受け、『将来の火星入植者たちがミッション・コントロールに反乱する可能性、研究結果が警告』と報じた。

ただし博士は、少なくとも地球からの資源に依存しているあいだはこのような事態に発展しにくいとも述べ、解決までに時間的余裕があるとの考えも示している。

通信がもたらす不信感

クルーが管制室と距離を置くようになったのは、長期の隔離によって孤立感や閉塞感などを感じたためではないかと考えられている。これに加え、論文を共同執筆したIBMPのナタリア・サポーキナ氏らは、通信遅延も大きな阻害要因であったと分析しているようだ。

火星は公転の位置によっては地球と非常に離れるため、通信は最大で片道20分、往復40分の遅延を伴う。SIRIUSプロジェクトにおいてもこの状況を再現すべく、管制室とシミュレーション施設との通信に意図的に5分間の遅延を挿入していた。

この結果、クルーたちは管制室から即座に判断を得られないことに不満と不信感を抱くようになり、自律的な決定を行い始めたのだという。管制室側としても推測に頼った対応を迫られることとなり、両者のコミュニケーションはますます悪化していった。実際の運用時には、管制室のサポート機能が損なわれる原因になるのではないかと懸念されている。

一方、クルー内には良い傾向もみられた。互いに人種や性別の垣根を越え、問題解決のために結束する傾向が観察されたという。過去に500日間の隔離をおこなった「Mars-500」実験プロジェクトでも、同様の傾向が確認されている。

閉鎖空間ではクルー同士の不和が懸念されるところだが、クルー対地上という構図も深刻な問題をはらんでいるようだ。

10年前に行われた「Mars500」プロジェクトの様子

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米ISM製造業景気指数、4月48.7 関税の影響で

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官解任へ=関係筋

ビジネス

物言う株主サード・ポイント、USスチール株保有 日

ビジネス

マクドナルド、世界の四半期既存店売上高が予想外の減
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中