最新記事

隔離

キャセイ航空パイロットが苦しむ、年最大150日の隔離生活 日光ない「独房」も

2021年12月15日(水)19時03分
青葉やまと

「公平でないですし、正当化されるものでもないと思います」「まったくもって受け入れられません」とパイロットは憤る。空港を去ったあとは、たとえ低リスク国からの帰国であっても、到着から3日間の自宅待機が義務付けられる。1日の外出時間は2時間までだ。続く18日間も、必要のない他者との接触を避けなければならない。

こうした制限に対し、有給休暇などの補償はまったくない。初回の入国時や続く機会にはまだ我慢できても、パンデミック以来幾度も繰り返すことでストレスが高まっているケースが多いという。

まるで独房、運動機会は刑務所以下

また、一部のケースでは隔離施設送りとなり、生活環境はさらに悪化する。パイロット自身から陽性反応が検出された場合、または他の陽性者の濃厚接触者と判断された場合には、香港・ランタオ島のペニーズベイに設けられた悪名高い隔離センターへ移送される。

この地にはプレハブ2階建ての仮設住宅が一面に広がり、ベッドのほかにはわずかな空間しかない閉ざされた一室で、人々は3週間の孤独な隔離生活を強いられる。

隔離を経験したあるパイロットはBBCに対し、狭い部屋での「独房監禁」のようなものであり、「日光はいっさいなかった」と振り返る。「植物さえも、葉の一枚たりとも、見ることはありませんでした。」

別のパイロットはCNNに対し、隔離施設での生活は「非人道的」であると述べた。刑務所でさえ1日1時間ほど屋外で体を動かす時間を受刑者に与えているのに対し、隔離施設ではそれすら許されないと訴えている。

香港と距離を置く海外キャリア

パイロット自身のみならず、濃厚接触者と判断されればその家族や友人たちも隔離施設に送られることとなる。11月にはキャセイ社のパイロット3名が陽性反応を示し、その濃厚接触者となった270名が隔離キャンプへ送られた。

3名はドイツ・フランクフルトでのストップオーバーの際、規定に違反してホテルを抜け出していた。英ガーディアン紙によると、3名はすでに懲戒解雇されている。

香港における厳格なルールがクルーに悪影響を及ぼすとして、同地と距離を置くキャリアも出始めた。英ブリティッシュ・エアウェイズは11月下旬、従業員がこの「隔離キャンプ」送りとなった事態を受け、香港便の運行を停止している。英インディペンデント紙などが報じた。

また、米フェデックスは香港に存在した乗務員基地を完全に閉鎖した。スイス・インターナショナル・エアラインズも11月、香港便を停止している。

厳格な水際対策は、香港市民の安全を守るための措置ではある。しかし、航空業界従業員の生活を大きく制限するだけでなく、旅客・物流ハブとしての香港の立場を危うくするという予想外の影響を生じはじめた。オミクロンの出現を受け、先行きは不透明さを増すばかりだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米ブラウン大銃撃、当局が20代の重要参考人拘束

ワールド

中国、「持続可能な」貿易促進 輸出入とも拡大と党幹

ワールド

中国、鉄鋼に輸出規制 1月から許可制に

ワールド

米政権のAI州規制阻止、政治・法律面で執行にハード
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 2
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジアの宝石」の終焉
  • 3
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 4
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 5
    極限の筋力をつくる2つの技術とは?...真の力は「前…
  • 6
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 7
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 8
    大成功の東京デフリンピックが、日本人をこう変えた
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 9
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 10
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中