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クジラが食べるとオキアミは増える...海洋環境を支える「オキアミのパラドックス」

Why Whale Poop Maters

2021年11月23日(火)17時06分
ジェニー・モーバー(サイエンスライター)

このようにクジラのふんはデータの宝庫だが、海の生き物たちにとっても価値あるお宝だ。海洋生物に不可欠な微量栄養素である鉄分が豊富に含まれているからだ。

植物プランクトンがこの鉄を摂取し、オキアミが植物プランクトンを食べ、クジラがオキアミを食べてまた大量にふんを出す。驚異的なことに、クジラは捕食しているオキアミより多くのオキアミの個体数を支えているのだ。科学者たちはこの現象を「オキアミのパラドックス」と呼ぶ。

乱獲でクジラが減った海域では、クジラの餌になるオキアミや餌をめぐってクジラと競合関係にあるアザラシや海鳥などが増えそうなものだが、実は減っていることが調査で分かっている。

温暖化防止にも貢献

植物プランクトンは陸上の植物と同様、光合成を行う。太陽光のエネルギーを利用して水と二酸化炭素(CO2)から有機物を合成し、酸素を放出する。

この光合成には微量の鉄が必要だ。捕食者が植物プランクトンを食べたら、植物プランクトンが取り込んだ炭素は捕食者の体の一部になる。食べられなかった植物プランクトンは、「マリンスノー」として海底に降り積もり、気の遠くなるような年月の間海底に沈んでいる。

沿岸海域では川が栄養分を運んでくるので、こうしたサイクルを支える鉄が豊富にある。一方、氷に覆われ、生物が少ない南極大陸を取り囲む海域の水は鉄分に乏しい。

鉄が欠乏していれば、植物プランクトンは減り、オキアミやそれを食べる動物も減る。しかも光合成が不活発になり、CO2の吸収量が減って地球温暖化にブレーキをかけるシステムが十全に働かなくなる。「鉄はこのシステムを作動させる鍵だ」と、サボカは言う。

クジラが臭いゼリーを大量に出せば、地球上の生き物みんながハッピーになる、ということだ。

©2021 The Slate Group

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