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ハロワの窓口にいるのは非正規公務員──コロナ禍の女性たち

2021年11月1日(月)18時55分
印南敦史(作家、書評家)

ここで著者が訴えようとしているのは、「世の中を動かしているように見えていたビジネスパーソンたちは社会に不可欠(エッセンシャル)な存在ではなく、本当になくてはならないのは理不尽な扱いを受けてきた非正規の女性たちだった」という事実だ。

「UAゼンゼン」(GMS〔総合スーパー〕、飲食店、ホテル・レジャーなどサービス業で働く人たちを中心とする労働組合)が、カスタマーハラスメントの実態を知るために実施したアンケートでも、2020年7~9月の「悪質クレーム対策アンケート」(2万6000人回答)では、全体の36%が「新型コロナウイルスの影響による迷惑行為があった」と回答しているそうだ。


「遠くから来たのにマスクがない。自分たちの分は確保しているのだろう。何時のトラックで、荷物は来るのか! 隠しているのなら、早く出しなさいと叱責された」(総合スーパー)
「営業していることに対して、感染拡大を助長しているという内容に加え『菌がうつるから近寄るな』と言われた」(総合スーパー)
「感染防止策として、惣菜のトング使用が禁止になり、パック販売になった。そのことについての一方的な文句と『オレはコロナ怖くない』と繰り返し言い続けられた」(弁当販売)(134~135ページより抜粋)

ちなみに「迷惑行為をしていた顧客の性別」は男性が75%、「迷惑行為をしていた顧客の推定年齢」は50代以上が7割以上を占めているそうで、そんなところからも立場の弱い店員、とくに標的にしやすい女性従業員がターゲットになりやすいことが推測できる。

確かに、エッセンシャルワーカーの全てが女性ではないが

また、同じことは公務員にも言える。2020年4月に最初の緊急事態宣言が発令され、ロックダウンに近い状況になっても、彼らは通常時以上に忙しく働き続けなければならなかった。

なお、ここにもまた重要な問題がある。公務員と言っても、国/地方自治体/正規/非正規など立場はさまざま。だが、混み合う窓口で住民に接する機会が多いのは非正規公務員たちであり、つまり彼らはとりわけ高い感染リスクに晒されていたわけだ。

例えばここでは、公共職業安定所(ハローワーク)の職業相談部門で働く友子さん(54歳)の例が紹介されている。

キャリアコンサルタントの資格を持ち、ハローワークで働いて11年になるベテランだが、雇用は1年ごとの更新制。ハローワークで働く人の約7割、窓口で働く人の大半は単年度契約の非正規職員なのだそうだ。

公務員と聞くと、多少なりとも"将来を保証された立場にある人たち"というようなイメージを抱きがちだが、実は窓口のこちら側にいる人と向こう側にいる人は、意外に近い立場にあるようだ。

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