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ハロワの窓口にいるのは非正規公務員──コロナ禍の女性たち

2021年11月1日(月)18時55分
印南敦史(作家、書評家)
『ルポ コロナ禍で追いつめられる女性たち――深まる孤立と貧困』

Newsweek Japan

<過酷な現実の一側面を映し出し、「ビジネスパーソンたちは社会に不可欠(エッセンシャル)な存在ではなく、本当になくてはならないのは非正規の女性たちだった」と訴える>

新型コロナウイルスの感染者数が、このところ減少の一途をたどっている。その減り方は不自然ですらあるので楽観視はできないが、なんとか収束に向かってほしいものである。

とはいえ、例えば貧困がそうであるように、既にコロナ禍は多くの問題を生み出してしまっている。これらはコロナ禍が収束すれば解決するわけでもないから、モヤモヤとした気分はどうやっても払拭できない。

『ルポ コロナ禍で追いつめられる女性たち――深まる孤立と貧困』(飯島裕子・著、光文社新書)が映し出しているのも、コロナ禍を発端とする過酷な現実の一側面だ。タイトルからも分かるとおり、クローズアップされているのは、深刻な状況と向き合う女性たちの姿である。


「女性からの相談が多く戸惑っている」。コロナ禍で生活に困窮した人たちからの相談を行っているNPOや労働組合関係者からこうした声が聞かれるようになったのは、2020年3月にまでさかのぼる。2008年のリーマンショック時にも窓口を開き、仕事を失い、生活に困窮した人々の相談に乗っていた「府中緊急派遣村」は、コロナ禍でも20年4月に府中市、5月に国立市、12月に立川市と狛江市で「困りごと相談会」を実施して相談に応じてきた。「困りごと相談会」では弁護士による相談のほか、労働相談や食料配布などが行われたが、すでに20年4月の段階で女性からの相談が多数を占めたという。(「はじめに」より)

近年は女性活躍推進が進み、女性の就業者数は過去最高に達していると言われてきた。しかし、実際に増加したのは女性の非正規雇用者である。なかでも注視すべきは、濃厚接触を避けられない「医療・福祉」と一部の「卸売・小売」の領域において女性比率が最も高いという現実だ。

多くが低賃金の非正規労働者である彼女たちは「エッセンシャルワーカー」として注目を浴びることになったが、危険と隣り合わせの、そして理不尽としか言えないような状況で生きているのだ。


 医療従事者のみならず、コロナウイルス感染の恐怖と隣り合わせで職務をこなす人々の存在が「エッセンシャルワーカー」という言葉によって可視化されたのだ。介護士、保育士、スーパーや飲食店の従業員など、エッセンシャルワーカーの大半は女性であり、その多くはパートや派遣などの非正規労働者で、収入も最低賃金レベルである場合が少なくない。(129~130ページより)

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