最新記事

心理学

特定の「誰か」を猛烈に攻撃する善良な市民たち...集団心理の脅威を名著に学ぶ

2021年10月29日(金)11時32分
flier編集部

「集団的精神をもった個人は、その知能や個性を失い、無意識的性質に支配される」。そして、そうした「群衆」は容易に「感染」します。「自分はそうならない!」と思っていても避けることは難しいのです。

一旦盛り上がった群衆は、強いうねりを生み出して、さらに多くの人を巻き込んでいきます。「自分は巻き込まれない保証」などどこにもないでしょう。

インターネットなどない時代ですらそうだったのですから、さらに情報の波にさらされやすい現代ではなおさらです。このメカニズムについて、本書で理解を深めておくことは、決して無駄になりません。

「善良な人」が手を染めるとき

211028fl_gssr03.jpg

『普通の人びと』
 著者:クリストファー・R・ブラウニング
 翻訳:谷喬夫
 出版社:筑摩書房
 flierで要約を読む

巻き込まれ、流されていった先の悲劇、それが第二次世界大戦でした。

戦争というと、政治家と軍人によるドンパチだと思いがちですが、実は一般社会に生きる「普通の人びと」が、積極的にかかわってきました。

『増補 普通の人びと』は、第二次世界大戦中のナチス・ドイツで、「普通の人びと」がユダヤ人の大量虐殺を担う主体になっていった様が描かれています。

「自分が加担しなくても他の誰かが殺してしまう」「母親がいない状態では子どもは一人で生きていけない」と自分の"罪"を正当化しながら、次第に虐殺という「解決」手段に慣れ、効率的な執行者となっていきました。その「転落」の道筋は、本書を読んでいてとても痛ましく感じるところです。

無実の人を手にかける。それは、現代的な感覚からすると極端な発想のように感じるかもしれません。しかし、実際に命を奪うようなことはなくても、全体的な社会の「空気」のなかで、特定のだれかを「敵対視」するような場面は、いろんなところで見られます。大人の社会でも苛烈な差別はなくなっていませんし、SNSで暴力的な言葉を投げつける人も減りません。

そうした状況に対して、抗いようもなく、手を差し伸べることもできないことはよくあります。落とし穴は、世の中のあらゆるところに空いていて、「善良なあなた」を待ち構えているのです。

これだけ"いじめ"の悲劇が訴えられていながら、いまだにその暴力がなくならない日本社会。あなたは、絶対にそういう感覚にならないと自信をもって言えますか?

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

トランプ氏、香港紙創業者の有罪「残念」 中国主席に

ワールド

ゼレンスキー氏、ロシアが和平努力拒否なら米に長距離

ビジネス

ナスダックが取引時間延長へ申請、世界的な需要増に照

ビジネス

テスラ、ロボタクシー無人走行試験 株価1年ぶり高値
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連疾患に挑む新アプローチ
  • 4
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    アダルトコンテンツ制作の疑い...英女性がインドネシ…
  • 7
    「なぜ便器に?」62歳の女性が真夜中のトイレで見つ…
  • 8
    「職場での閲覧には注意」一糸まとわぬ姿で鼠蹊部(…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 1
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 2
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 3
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 4
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 9
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中