最新記事

韓国

韓国の初の独自開発ロケット「ヌリ」打ち上げ成功、ダミー衛星の軌道投入は失敗

2021年10月25日(月)17時55分
佐々木和義

ソウル駅で、国産ロケットの発射に注目する人々 REUTERS/Kim Hong-Ji

<10月21日、韓国初の独自開発したロケット「ヌリ」が全羅南道・高興の羅老宇宙センターから打ち上げられた>

2021年10月21日、韓国が独自技術で開発したロケット「ヌリ」が全羅南道・高興の羅老宇宙センターから打ち上げられた。目標高度の700キロに到達したが、ダミー衛星の軌道への投入に失敗した。

文在寅大統領は「目標を完全に達成することはできなかったが、とても素晴らしい成果を上げた」とし、「今回不足していた部分を点検して補完すれば、来年5月に行われる2回目の打ち上げは完璧な成功を収めるだろう」と述べた。韓国は来年5月に2回目の発射を予定している。

韓国メディアが「ヌリ」の打ち上げを絶賛する一方、海外メディアはロケット技術が軍事に転用される可能性を指摘している。

韓国はロシアの支援でロケット開発を進めてきたが

「ヌリ」は午後5時、羅老宇宙センター第2発射台から打ち上げられ、1段目とダミー衛星を保護するフェアリング、2段目を分離し、目標高度の700キロメートル上空に達したところで、ダミー衛星を分離したが、3段目が早く燃焼を終了したことから速度が不足し、衛星の軌道投入に失敗した。

韓国はロシアの支援でロケット開発を進めてきた。韓国航空宇宙研究院は2001年、外国から技術を導入することを決め、各国に打診した。米国はロケット技術が軍事に転用される懸念から難色を示し、フランスは高額な金額を提示、日本も消極的で、低い金額を提示したロシアの技術を導入した。

2009年、羅老宇宙センターを建設し、同年8月25日、韓露合作のナロ(羅老)号ロケットを打ち上げたが失敗。2010年6月10日に打ち上げたナロ2号機も失敗した後、2013年1月、3号機の打ち上げに成功した。
この間、ナロ2号機の打ち上げが失敗した原因をめぐって韓国とロシアが対立。韓国はロシアとナロ3号機の開発を進める一方、独自ロケット「ヌリ」の開発に着手した。

「ヌリ」は2017年にエンジンが1段のみの試験ロケットを打ち上げ、1段目から3段目まであるロケットは2020年の打ち上げを予定したが、技術的な問題からいずれも1年延期した。

韓国メディアは好意的な論評

今回の打ち上げについて、韓国メディアは好意的な社説を掲載している。
中央日報は「未完の成功だが、宇宙強国の希望を打ち上げた」とし、ヌリ号開発には国内300社が参加しており、産業的価値も大きい」「打ち上げ技術能力を確保して宇宙開発時代の主導者になることを期待する」と前向きに評価している。

東亜日報は「世界の宇宙ロケットの開発において、初の打ち上げで成功する確率は約28%で、一度目の成功は、韓国技術の優秀性を誇示する快挙」と絶賛した。ソウル新聞朝鮮日報は「半分の成功(ソウル新聞)」としながらも挑戦を続けるべきだと論じている。

一方、BBCは「韓国はヌリ号を衛星打ち上げに使用する計画だと明らかにしたが、今回の試験は韓国の武器開発拡大の一環と見なされてきた」とし、弾道ミサイルとロケットは類似の技術を使用する点を強調。韓国と北朝鮮が続けて潜水艦弾道発射ミサイル(SLBM)を打ち上げたことにも言及した。

「2030年までに韓国の発射体を利用した月着陸の夢をかなえる」

文在寅大統領はヌリ号の打ち上げ後、「我々の衛星を、我々が作った発射体に載せて宇宙に打ち上げることができるようになった。2030年までに韓国の発射体を利用した月着陸の夢をかなえる」と述べたが、簡単ではない。

技術に加えて、米国が、自国技術が含まれている人工衛星を韓国の宇宙ロケットに載せて打ち上げることを認めておらず、海外の衛星を打ち上げることができない。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

英アーム、内製半導体開発へ投資拡大 7─9月利益見

ワールド

銅に8月1日から50%関税、トランプ氏署名 対象限

ビジネス

米マイクロソフト、4─6月売上高が予想上回る アジ

ワールド

トランプ氏、ブラジルに計50%関税 航空機やエネル
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ関税15%の衝撃
特集:トランプ関税15%の衝撃
2025年8月 5日号(7/29発売)

例外的に低い日本への税率は同盟国への配慮か、ディールの罠か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目にした「驚きの光景」にSNSでは爆笑と共感の嵐
  • 3
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い」国はどこ?
  • 4
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから…
  • 5
    M8.8の巨大地震、カムチャツカ沖で発生...1952年以来…
  • 6
    一帯に轟く爆発音...空を横切り、ロシア重要施設に突…
  • 7
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 8
    「自衛しなさすぎ...」iPhone利用者は「詐欺に引っか…
  • 9
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 10
    街中に濁流がなだれ込む...30人以上の死者を出した中…
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの習慣で脳が目覚める「セロ活」生活のすすめ
  • 3
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜つくられる
  • 4
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
  • 5
    航空機パイロットはなぜ乗員乗客を道連れに「無理心…
  • 6
    中国が強行する「人類史上最大」ダム建設...生態系や…
  • 7
    「様子がおかしい...」ホテルの窓から見える「不安す…
  • 8
    タイ・カンボジア国境で続く衝突、両国の「軍事力の…
  • 9
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 10
    中国企業が米水源地そばの土地を取得...飲料水と国家…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 4
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 5
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 6
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 7
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 10
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中