最新記事

死亡率を10%以上も低下させた健康アプリと医療機関のコラボ

Health apps track vital health stats for millions of people, but doctors aren’t using them

2021年10月13日(水)15時00分
サリグラマ・アグニホスル(ニューヨーク州立大学ビンガムトン校教授)

<健康系ウエアラブル端末で集めたデータを医療現場で活用できれば真の健康増進につながることが実証研究で確認された>

健康・医療分野のウエアラブル端末とアプリは、日常生活の一部になりつつある。血糖値の測定から、妊娠しやすい時期の特定まで、さまざまな健康管理を助けるとうたわれているスマートフォン(スマホ)のアプリは30万種類を超える。

だが、これまでのところ、こうしたアプリは、医療そのものの質の改善にはほとんど活用されていない。ユーザーが自分の健康状態に関するデータを集めたり、それを家族や友達とシェアすることはできるが、一般に、そのデータを病院の電子カルテと結び付けたり、医療従事者がモニタリングして、それに基づく助言をすることはできないからだ。

筆者の研究チームは、高血圧症の患者を対象に、アプリから得た健康データを医療に活用できる可能性を調査した。その結果、こうしたデータを、ユーザーが受けている医療と統合すれば、患者の健康を大幅に改善できることが分かった。

ただ、少なくともアメリカでは、ウエアラブル端末から得たデータをこのように使うのは容易ではない。高血圧症は、アメリカ人の最も深刻な慢性疾患の1つだ。米疾病対策センター(CDC)によると、2018年、高血圧症は50万人近くの直接的または間接的死因となり、成人の半分(約1億1000万人)の健康に影響を与えた。

放置すれば、高血圧症は心臓その他の器官に取り返しのつかないダメージを与える恐れがある。食生活や飲酒量、運動や喫煙の習慣を変えるだけで、高血圧症は簡単に防いだり、発症を遅らせたりできる。それでも発症してしまった場合は、治療と管理が必要だ。だが、通常、患者が医師の診察を受けるのは年に3〜4回(しかも診察時間は短い)。これでは医師が症状を継続的に追跡し、評価し、根本原因を探ることは難しい。

そこで筆者の研究チームの1人(内分泌科の専門医だ)が、高血圧症患者の状態をモニタリングして治療に役立てるアプリを開発した。

このアプリは、パソコンやスマホで使うもので、ウエアラブル端末対応ではないので、患者は自分で血圧と脈拍を測定して入力する必要がある。医師はその記録を毎日チェックして、必要と判断すれば、新たな薬物治療などの介入措置を提案したり、既存の薬物治療を調整したり、食事や運動についてアドバイスをする。

このアプリは無料で患者に配布され、筆者の研究チーム(とアシスタント)は、無料で患者のデータをモニタリングした。患者と医師は、アプリを通じて直接コミュニケーションを取ることもでき、最善の治療法について共同で決定を下すことができた。

おかげで患者が、数回データを入力しただけでアプリを使わなくなる事態も避けることができた。

こうして4年にわたり1600人の高血圧症患者を追跡したところ、典型的なアプリユーザーは、アプリを使わなかった人と比べて、収縮期血圧(いわゆる「血圧の上」)が2mmHG下がった。血圧の上が150mmHGを超える人の場合、下落幅は6mmHGにもなった。

血圧の上が10mmHG下がると死亡リスクは13%低下するから、これは大きな改善と言える。筆者たちの研究は、健康アプリは慢性病の管理に役立つという、従来の研究結果を裏付けるものだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国シャオミ、第2四半期は予想上回る30.5%増収

ワールド

ガザ停戦案に対するハマスの回答、イスラエルは精査し

ワールド

エア・カナダと客室乗務員が暫定合意、 スト終結で運

ワールド

AIで恒久的失業、米国民7割が懸念=ロイター/イプ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
2025年8月26日号(8/19発売)

中国の圧力とアメリカの「変心」に危機感。東アジア最大のリスクを考える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 2
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人」だった...母親によるビフォーアフター画像にSNS驚愕
  • 3
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 4
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大…
  • 5
    【クイズ】2028年に完成予定...「世界で最も高いビル…
  • 6
    AIはもう「限界」なのか?――巨額投資の8割が失敗する…
  • 7
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 8
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 9
    「これからはインドだ!」は本当か?日本企業が知っ…
  • 10
    アラスカ首脳会談は「国辱」、トランプはまたプーチ…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 4
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 5
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 6
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 7
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 8
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 9
    債務者救済かモラルハザードか 韓国50兆ウォン債務…
  • 10
    「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」(東京会場) …
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 9
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 10
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中