最新記事

死亡率を10%以上も低下させた健康アプリと医療機関のコラボ

Health apps track vital health stats for millions of people, but doctors aren’t using them

2021年10月13日(水)15時00分
サリグラマ・アグニホスル(ニューヨーク州立大学ビンガムトン校教授)

しかしそれを実際に運用するには難しい点もある。例えば、多くの患者は、ウエアラブル端末を購入したり、アプリの使用料を払い続けたりする経済的な余裕がない。

医師の報酬をどう算定するかという問題もある。現時点では、医師がアプリ経由で医療関連のアドバイスをする場合の明確な課金システムは存在しない。ただ、コロナ禍で遠隔医療が急拡大したことにより、多くの保険会社はその料金算定方法を本格的に検討するようになった。これがアプリを通じた医療サービスにも適用できるかもしれない。

だが、アプリ開発業者にとっては、アプリから得られるデータが専門的な医療に統合される仕組みをつくっても、大きな利益は期待できない。通常のアプリは、定額課金ユーザーなど有料で利用する人を増やすか、アプリ内の広告スペースを売ることによって利益を得る。

最も大きな利益を稼ぎ出すのは、ユーザーの心理を巧みに利用して売り上げを増やすモバイルゲーム・アプリだ。だが、医療系のアプリでは、こうした利益モデルは使えない。患者に何らかの商品を売り付けたり、患者の関心を広告主に販売したりすれば、患者は自分の医療データはちゃんと守られているのか、薦められた商品は本当に治療に必要なものなのか、自分がそれを購入することで主治医は利益を得るのかなど、さまざまな疑念を抱くだろう。

それは医師と患者の信頼関係(慢性疾患を治療する場合は特に不可欠だ)を傷つける恐れがある。医療に使われるテクノロジーである以上、不具合は最小限に抑える必要性もある。患者にとってアプリが使いやすいことや、患者が求めるツールを備えていることも重要だ。「うまく使えない」といった理由で、患者がアプリを使うのをやめてしまったら元も子もない。

また、ウエアラブル端末などで測定される健康データが、本格的な医療機器で測定するのと同じくらい正確なデータであることを担保する基準も、今のところ確立されていない。

それでも、適切に設計されたアプリは、効果的かつ効率的な医療を実現する上で大きな助けになる。その認識が広がれば、この分野で最大のステークホルダー、つまり保険会社が投資を増やして、医療現場と個人をつなぐアプリの開発と利用に拍車が掛かる可能性がある。高血圧症などの慢性疾患を治療する上で究極のカギとなるのは、患者と医師のやりとりだ。

従って患者だけでなく、医師にも支持される医療アプリを作れば、両者の交流は充実し、よりよい治療と健康がもたらされるだろう。

From The Conversation


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル、ラファの軍事作戦拡大の意向 国防相が米

ワールド

焦点:米支援遅れに乗じロシアが大攻勢、ウクライナに

ワールド

南ア憲法裁、ズマ前大統領に今月の総選挙への出馬認め

ワールド

台湾新総統が就任、威嚇中止要求 中国「危険なシグナ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の「ロイヤル大変貌」が話題に

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    米誌映画担当、今年一番気に入った映画のシーンは『悪は存在しない』のあの20分間

  • 4

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 5

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 6

    「裸に安全ピンだけ」の衝撃...マイリー・サイラスの…

  • 7

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 8

    中国の文化人・エリート層が「自由と文化」を求め日…

  • 9

    「すごく恥ずかしい...」オリヴィア・ロドリゴ、ライ…

  • 10

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 3

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 9

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 10

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中