最新記事

日本

政治と五輪を振り返る──学校や医療の現場から

A MULTIFACETED LEGACY

2021年9月22日(水)16時50分
石戸 諭(ノンフィクションライター)

教訓は「災害下の日常」にある

現代のオリンピックはいくら崇高な理念を掲げたとしても、その実態は大規模な商業スポーツイベントにすぎない。競技によっては、世界最高峰の大会としての意義もとっくに失っている。サッカーやラグビーならば最高峰としてワールドカップがある。野球ならばメジャーリーグが最高峰であることに誰も異存はないだろう。

大会の価値は、アスリートたちの懸ける気持ちの総量で決まる。最高峰でないものまで包摂し、巨大化するオリンピックは明らかに曲がり角に来ている。そうであっても、五輪は常に人々の関心を引き付け、政治的なイベントになってしまう。

人々が目にしていたのは、スポーツであって政治ではなかったはずだ。それなのに、いつの間にか政権だけでなく、社会も反対派も全てを政治問題へと結び付ける語りが広がっていった。

多くの国民はオリパラを楽しんではいたが、それは競技やアスリートの姿勢を楽しんだのであって、菅政権とは切り離されていたはずだ。それが実態以上の文脈を付与され、ナショナルイベントとして語られる。それこそが「オリンピック」とも言える。

しかし、問題を切り分ける必要がある。あらゆる問題をオリンピックに結び付けて大きく考えてしまうことの弊害は、現場で積み重ねられた経験から学べなくなってしまうことにある。

コロナ禍は「災害」である。災害に対応した合理的な医療が必要であること、そのために政治のサポートが必要であることは私も本誌などで書いてきた。取材をしながら、同時にこうも思う。災害だからこそ、できることから非常時の中に日常を取り戻していくための工夫も必要だ。

教育現場はその工夫に満ちている。適切な対策を取ることで、自粛を求められた多くのイベントはこれまでとは違う形での開催を模索できる。

例えば堀たちの対策から学ぶことは多いはずだ。彼女たちが徹底した基本はあらゆる現場に応用できる。

東京オリンピックは政権にとって声高に「大成功」とは言えない、反対派にとっても「大失敗」と言えない、ある意味ではパンデミックで変わった社会を映し出す2021年らしいオリンピックになってしまった。しかし、パンデミックであっても日常は続く。

大会から得られる教訓は抽象的な絵空事ではなく、日常を維持しようとした具体的な取り組みの中にあるのかもしれない。

<本誌9月7日発売号より>

ニューズウィーク日本版 豪ワーホリ残酷物語
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年9月9日号(9月2日発売)は「豪ワーホリ残酷物語」特集。円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代――オーストラリアで搾取される若者のリアル

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

石破首相が辞任表明、「米大統領令で一つの区切り」

ワールド

石破首相、辞任の意向固める 午後6時から記者会見

ワールド

インドは中国に奪われず、トランプ氏が発言修正

ワールド

26年G20サミット、トランプ氏の米ゴルフ場で開催
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 3
    眠らないと脳にゴミがたまる...「脳を守る」3つの習慣とは?
  • 4
    「稼げる」はずの豪ワーホリで搾取される日本人..給…
  • 5
    ロシア航空戦力の脆弱性が浮き彫りに...ウクライナ軍…
  • 6
    金価格が過去最高を更新、「異例の急騰」招いた要因…
  • 7
    「ディズニー映画そのまま...」まさかの動物の友情を…
  • 8
    「生きられない」と生後数日で手放された2本脚のダ…
  • 9
    今なぜ「腹斜筋」なのか?...ブルース・リーのような…
  • 10
    「あのホラー映画が現実に...」カヤック中の男性に接…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 3
    眠らないと脳にゴミがたまる...「脳を守る」3つの習慣とは?
  • 4
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 5
    【動画あり】9月初旬に複数の小惑星が地球に接近...…
  • 6
    「あのホラー映画が現実に...」カヤック中の男性に接…
  • 7
    「生きられない」と生後数日で手放された2本脚のダ…
  • 8
    「よく眠る人が長生き」は本当なのか?...「睡眠障害…
  • 9
    「稼げる」はずの豪ワーホリで搾取される日本人..給…
  • 10
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 6
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 7
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 8
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 9
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 10
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中