最新記事

日本

政治と五輪を振り返る──学校や医療の現場から

A MULTIFACETED LEGACY

2021年9月22日(水)16時50分
石戸 諭(ノンフィクションライター)

彼らは決してコロナを軽視してはいない。貫いているのはパンデミックであっても、現実に生じるリスクを低くして教育の機会を提供するという考えである。

大阪府立大学の調査によれば、全国一斉休校で給食がなくなり「困った」と回答した子供は実に31.4%だ。感染が拡大した地域では虐待の増加も報告されている。学校という機能を維持することは、貧困や虐待という感染症以外のリスクから子供を守ることでもある。

オリンピック・パラリンピックの会場や選手村の感染症対策に携わった専門家の1人、感染症コンサルタントの堀成美はこう話す。

「オリンピックで医療逼迫という言葉が使われていたが、あまりに主語が広過ぎると思っていた。どこのエリアの、どの病院の、どの診療科で、何床分のベッドがオリパラに関連する患者を搬送して逼迫していると言われたら対策は打てる。そんな声は届かなかった。私には逼迫という言葉だけが独り歩きしているように見えた」

看護師としての現場経験も豊富な堀は、国立国際医療研究センター感染症対策専門職として感染症対策の最前線に関わってきた。コロナ禍では東京都港区の保健所の支援に早期から入り、オリパラでも一人の実務家として関わってきた。

そんな堀にとってオリパラは、「真夏のマスイベント」以上でも以下でもない。

やるべきことは決まっている。混乱が起きないように選手や関係者にアクシデントが発生した際、現場の医師・医療スタッフで対応できるものとできないものを決め、あらかじめ搬送する医療機関を決めておく。

感染症はコロナだけではない。マラリアなど輸入感染症への備えも要る。熱中症のような想定可能なアクシデントは、会場ごとに想定される患者数をはじき出し、重度の場合は近隣の病院と連携して対応するように手はずを整えておく。

コロナについても想定可能なシミュレーションを関係者で共有したり、施設内のゾーニングなど専門的な知見が必要な対策を施したりはしたが、いずれも基本の域を出るものではないという。

その結果がこうだ。8月9日付の朝日新聞によれば、8月8日までの大会に関係する陽性者は430人で、組織委の業務委託先の業者が236人で最多。大会関係者が109人、選手が29人と続き、医療機関に入院したのは3人だった。社会の懸念よりも低い数字に抑えている。

「ゼロリスクはない以上、陽性者は出る想定で準備をしてきたが、十分に低いと思う。多くの専門家に私たちの対策を説明し、『不十分ならば改善するので、指摘してほしい』とアドバイスを求めたが、具体的な改善策は出なかった」と堀は語った。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

スウェーデン、ウクライナに戦闘機「グリペン」輸出へ

ワールド

イスラエル首相、ガザでのトルコ治安部隊関与に反対示

ビジネス

メタ、AI部門で約600人削減を計画=報道

ワールド

イスラエル議会、ヨルダン川西岸併合に向けた法案を承
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺している動物は?
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 6
    汚物をまき散らすトランプに『トップガン』のミュー…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 9
    国立大卒業生の外資への就職、その背景にある日本の…
  • 10
    【クイズ】12名が死亡...世界で「最も死者数が多い」…
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 5
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 6
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 9
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 10
    TWICEがデビュー10周年 新作で再認識する揺るぎない…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中