最新記事

新型コロナウイルス

所得格差と経済成長の関係──再配分政策が及ぼす経済的影響

2021年9月13日(月)14時28分
鈴木 智也(ニッセイ基礎研究所)

nissei20210909185003.jpg

まず、ジニ係数の推移から見てみると、税金や社会保険料などを控除する前の所得である「当初所得」における格差は、1990年代後半以降に拡大傾向にあるものの、再配分後の再配分所得で見た所得格差は、ほぼ横ばいで推移している[図表5]。これは、税制や社会保険制度などの所得再配分政策が、全体としてみれば、所得格差の拡大を抑制する機能を果たして来たと見ることができるだろう。なお、ここで見られる当初所得における格差の拡大は、高齢化に伴う年齢構成の変化に要因があるとする見方がコンセンサスとなっている。実際、家計の所得格差を要因別に分解した内閣府の分析5では、高齢化等の年齢構成の変化は、常に格差を広げる方向に働いており、その程度も大きいことが指摘されている。日本で所得格差を見る際には、人口構造の変化を割り引いてみることが適切だと言える。

次に、相対的貧困率については、2000年代半ば頃まで上昇傾向にあったものの、2010年代以降は横ばいないし低下傾向の推移となっている。上昇傾向にあった要因は、ジニ係数と同じく高齢化によって説明されるが、最近の横ばいないし低下傾向での推移は、所得環境の改善を反映したものであると考えられる。なお、相対的貧困世帯の特徴としては、年齢別では高齢者が多いが、世帯類型別では単身世帯やひとり親世帯に多いことが挙げられる。特に子どもがいる現役世帯の中で、ひとり親世帯の相対的貧困率は高く、その半数近くが相対的貧困状態に置かれている6。

なお、OECDデータを用いて所得格差の水準を国際比較してみると、日本の所得格差は、南アフリカや中国、インド、ブラジルのような極端な水準にはないものの、主要先進国の中では比較的高い水準にあることが分かる[図表6]。例えば、G7諸国の中で見ると、ジニ係数は米国(0.390)と英国(0.366)に次いで3番目に高く、相対的貧困率は米国(0.178)に次いで2番目に高い。ただし、この結果を見る際には、国際比較で利用される統計が変わると、見方が大きく変わる点に注意が必要だろう。例えば、日本のOECDデータは「国民生活基礎調査」をもとに算出されるが、これを「全国消費実態調査」(ジニ係数=0.281、相対的貧困率=9.9、2014年時点)を用いて比較すると、日本の所得格差はドイツやフランスなどに近くなり、主要先進国の中で高いとは言えない水準に落ち着くことになる。国際比較における所得格差は議論の分かれるところであり、ある程度幅を持って見ることが必要である。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ロシア財務省、石油価格連動の積立制度復活へ 基準価

ワールド

台湾中銀、政策金利据え置き 成長予想引き上げも関税

ワールド

現代自、米国生産を拡大へ 関税影響で利益率目標引き

ワールド

仏で緊縮財政抗議で大規模スト、80万人参加か 学校
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 4
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 7
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 9
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 10
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中