最新記事

気候変動

中東は世界の2倍ペースで気温上昇中...無策な政府、紛争、貧困という絶望

NO LONGER LIVABLE

2021年9月9日(木)17時08分
アンチャル・ボーラ(レバノン在住ジャーナリスト)

あまりの暑さで反政府運動が盛り上がる

イラクでは今年7月の記録的な猛暑の最中、政府の無策に怒った人々が通りを埋め尽くした。彼らは交通を止め、タイヤを燃やし、発電所を包囲。軍隊が出動する騒ぎとなった。

皮肉なことに、豊かな石油資源を誇る南部の都市バスラで国内最長レベルの停電が続き、大規模な抗議運動が発生。少なくとも3人が死亡した。イラクの電力危機を招いている最大の要因は政治の混乱だと、専門家は指摘する。

レバノンでも8月に同様の事態が起きた。この国の人々はそれでなくてもさまざまな危機にさらされ、政府の無策にいら立ちを募らせていた。この夏には燃料不足による混乱が各地に広がり、タンクローリーから燃料を盗む、発電所を荒らすなどの犯罪が多発。銃を手にしてガソリンスタンドの列に割り込むなど、燃料の奪い合いで人々は殺気立った。

レバノンでは1990年の内戦終結後も3時間程度の停電は日常茶飯事だった。だが2019年以降は経済が悪化の一途をたどり、停電が長引いたため、人々は自衛手段として発電機を使うようになった。今年8月12日に中央銀行が燃料補助金を打ち切ると、頼みの自家発電もできなくなり、家々の明かりは消え、富裕層でさえエアコンを使えなくなった。

ガソリンスタンド周辺では日常的に住民同士の小競り合いが起きるため、混乱を避けて公平に分配できるよう軍隊が警備に当たるようになった。8月半ばには北部で軍が盗まれた燃料タンクを押収し、市民にガソリンを配給しようとしているときにタンクローリーが爆発、30人近い死者が出る惨事となった。

レバノンの支配階級は権力の座にしがみつき、多額の補助金にもかかわらず赤字になっている電力部門の改革を拒んでいる。

専門家によれば、レバノンは電力事業を収益化するだけでなく、その収益によってエネルギー構成の多様化と豊富な風力・太陽エネルギーの活用を図る大きな可能性を秘めている。一貫性のある政策は、猛暑の時期に涼をもたらすばかりか、CO2排出量を削減し、ひいては温暖化を防止するのにも役立つだろう。

17年、イランの気温は中東で史上最高の54度を記録、今年7月にも50度を上回った。しかし干ばつ続きで水力発電所はフル稼働できず、電力の需要が増えている時期に発電量は減少する始末。各地の都市で抗議デモが起き、参加者からは「独裁者に死を」「ハメネイに死を」と最高指導者アリ・ハメネイ師を非難する叫び声も上がった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

IMF経済見通し、24年世界成長率3.2% 中東情

ビジネス

米国株式市場=S&P・ナスダック続落、金利の道筋見

ビジネス

NY外為市場=ドルが対円・ユーロで上昇、FRB議長

ビジネス

制約的政策、当面維持も インフレ低下確信に時間要=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 2

    大半がクリミアから撤退か...衛星写真が示す、ロシア黒海艦隊「主力不在」の実態

  • 3

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無能の専門家」の面々

  • 4

    韓国の春に思うこと、セウォル号事故から10年

  • 5

    中国もトルコもUAEも......米経済制裁の効果で世界が…

  • 6

    【地図】【戦況解説】ウクライナ防衛の背骨を成し、…

  • 7

    訪中のショルツ独首相が語った「中国車への注文」

  • 8

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 9

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 10

    「アイアンドーム」では足りなかった。イスラエルの…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 3

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...当局が撮影していた、犬の「尋常ではない」様子

  • 4

    ロシアの隣りの強権国家までがロシア離れ、「ウクラ…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    NewJeans、ILLIT、LE SSERAFIM...... K-POPガールズグ…

  • 7

    ドネツク州でロシアが過去最大の「戦車攻撃」を実施…

  • 8

    「もしカップメンだけで生活したら...」生物学者と料…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    猫がニシキヘビに「食べられかけている」悪夢の光景.…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    巨匠コンビによる「戦争観が古すぎる」ドラマ『マス…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中