最新記事

絶滅

85年前に絶滅したフクロオオカミの映像がカラー化された

2021年9月15日(水)17時45分
松岡由希子

動植物の保護への啓発のために映像がカラー化され公開された NFSA Films-YouTube

<85年前に絶滅した肉食の有袋類フクロオオカミの1933年の白黒映像がカラー化された>

かつて豪州のタスマニア島で生息し、85年前に絶滅した肉食の有袋類フクロオオカミは、オオカミに似た外観で、背にトラのような濃く太い縞模様があったことから「タスマニアオオカミ」や「タスマニアタイガー」とも呼ばれる。

豪州の国立映像音声資料館(NFSA)は、フクロオオカミの最後の飼育個体を撮影した1933年の白黒映像をカラー化し、2021年9月7日、約1分20秒の動画をユーチューブで公開した。

1936年に死亡、この時点でフクロオオカミは絶滅した

元となった白黒映像は、1933年12月、タスマニア州ホバートのビューマリス動物園で飼育されていたフクロオオカミの最後の個体「ベンジャミン」を豪州の自然保護活動家デビッド・フレイ氏がとらえたものだ。

動画では、横たわったり、囲いの周りをうろうろ歩き回ったり、口を大きく開けてあくびをしたり、後脚で体を掻いたりするベンジャミンの様子が確認できる。なお、ベンジャミンは1936年9月7日に死亡し、この時点でフクロオオカミは絶滅したと考えられている。

Tasmanian Tiger in Colour


国立映像音声資料館は、4Kフィルムスキャナー「スキャニティHDR」を用いてオリジナルのネガフィルムを4K解像度でスキャンし、仏パリの制作スタジオ「コンポジット・フィルム」を主宰するクリエイティブディレクターのサミュエル・フランソワ-スタイニンガー氏に映像のカラー化を依頼した。

この映像のカラー化には200時間以上が費やされた。フクロオオカミの毛皮は非常に稠密であるため、多くの毛を細かくアニメーション化しなければならなかった。

また、複数の博物館で保存されているフクロオオカミの皮膚を参照し、色を精緻に再現した。フクロオオカミに関する文献やイラスト、絵画をレビューしたうえで、デジタル修復やVFX手法のひとつ「ロトスコープ」、人工知能(AI)アルゴリズムなどのデジタル技術を活用し、ネガの各フレームに色をシームレスに統合したという。

命日の9月7日は豪州で「絶滅危惧種の日」に制定

フクロオオカミは豪州全土で生息していたが、2000年前にタスマニア島のみで生息するようになり、ヨーロッパ人が入植した18世紀後半には個体数が約5000頭であったと推定される。その後、乱獲や生息地破壊などの要因により、急速に絶滅へと向かった。

「ベンジャミン」の命日である9月7日は豪州で「絶滅危惧種の日」に制定されており、カラー化された約90年前の「ベンジャミン」の映像もこの日に合わせて公開された。フランソワ-スタイニンガー氏は「映像のカラー化プロジェクトが絶滅の危機に瀕している動植物の保護への啓発に役立つことを願っている」と述べている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英BP、第3四半期の利益が予想を上回る 潤滑油部門

ビジネス

中国人民銀、公開市場で国債買い入れ再開 昨年12月

ワールド

米朝首脳会談、来年3月以降行われる可能性 韓国情報

ワールド

米国民の約半数、巨額の貿易赤字を「緊急事態」と認識
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    米沿岸に頻出する「海中UFO」──物理法則で説明がつかない現象を軍も警戒
  • 3
    「あなたが着ている制服を...」 乗客が客室乗務員に「非常識すぎる」要求...CAが取った行動が話題に
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 9
    「白人に見えない」と言われ続けた白人女性...外見と…
  • 10
    これをすれば「安定した子供」に育つ?...児童心理学…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中