最新記事

アメリカ社会

イベルメクチンの売り上げが米で24倍に、コロナ治療のつもりが救急治療室が満杯に

Patients Overdosing on Ivermectin Are Clogging Oklahoma ERs: Doctor

2021年9月3日(金)16時50分
ジョン・ジャクソン
イベルメクチンを買った男性

コロナにかかった時のためにイベルメクチンを買ったボリビアの男性(5月19日、ボリビアではコロナ治療薬としての処方が認められている) Rodrigo Urzagasti-REUTERS

<アメリカでは家畜用の寄生虫駆除薬であるイベルメクチンをコロナ治療薬として勝手に服用し、具合が悪くなって救急車で運び込まれる患者が急増>

米オクラホマ州郊外のある医師によれば、馬用の寄生虫駆除薬に使われるイベルメクチンを新型コロナウイルス感染症の治療薬として過剰摂取した人々が、地元の病院の救急処置室を埋め尽くしているという。

同州東部と南部の複数の救急処置室に勤務しているジェイソン・マクエリエ医師は、地元テレビ局KFOR-TVに対して、「この薬の服用にあたって医師の処方が必要なのには理由がある。場合によっては危険だからだ」と述べた。

イベルメクチンを服用する人が増えている事態に、米食品医薬品局(FDA)をはじめとする複数の保健当局が厳重な警告を発信。この薬を、本来の目的以外で使用しないようにと呼びかけている。

マクエリエ自身、最近イベルメクチンの副作用で救急処置室を訪れた多くの人を診察したという。また彼は、この薬を服用して体調を崩した人々への対応で、救急車が足りない事態が発生しているとも指摘した。

銃で撃たれた患者の治療ができない

「救急処置室がいっぱいで、銃で撃たれた人々がなかなか治療を受けられない」「ベッドが空かないため患者が運び込めず、救急車が病院から離れられない状態だ」と、マクエリエは述べた。「救急要請の電話に応じられる救急車がなければ、患者の元に向かえる救急車もない」

マクエリエが処置をした患者は、イベルメクチンが新型コロナ感染症の治療に効果的だという誤った主張を信じており、また多くの患者が、過去に家畜にこの薬を使ったことがあるとして、薬の服用に不安を抱いていなかったという。

「郊外の小さな町で育った人々は、人生のどこかでイベルメクチンに馴染みがある。寄生虫駆除薬としてよく家畜に使われるからだ」と彼は説明した。

アメリカおよびカナダ各地の家畜用品店は、ここ数週間でイベルメクチンの売り上げが大幅に増えたと報告しており、これは人々が新型コロナの治療薬として服用していることが原因である可能性がある。

米疾病対策センター(CDC)は最近の声明で、「薬局や小売店でイベルメクチンの取り扱い量が増えているが、人間用に販売されているものではない」と説明した。

CDCは声明の中でさらに、「FDAは新型コロナ感染症の予防薬または治療薬として、イベルメクチンの使用を認可も承認もしていない」と述べた。「米国立衛生研究所(NIH)の新型コロナ感染症治療ガイドライン委員会も、現段階で、新型コロナ感染症の治療薬としてイベルメクチンを推奨する十分なデータはないと判断している」

今、あなたにオススメ

ニュース速報

ビジネス

出口局面で財務悪化しても政策運営損なわれず、正常化

ワールド

焦点:汚染咳止めシロップでインドなど死亡数百件、米

ワールド

アングル:COP28、見えない化石燃料廃止への道筋

ワールド

OPECプラス閣僚会合、現行政策調整の可能性低い=

今、あなたにオススメ

MAGAZINE

特集:日本化する中国経済

特集:日本化する中国経済

2023年10月 3日号(9/26発売)

バブル崩壊危機/デフレ/通貨安/若者の超氷河期......。失速する中国経済が世界に不況の火種をまき散らす

メールマガジンのご登録はこちらから。

人気ランキング

  • 1

    中国の原子力潜水艦が台湾海峡で「重大事故」? 乗組員全員死亡説も

  • 2

    黒海艦隊「提督」の軽過ぎた「戦死」の裏に何があったのか

  • 3

    広範囲の敵を一瞬で...映像が捉えたウクライナ軍「クラスター弾」攻撃の瞬間 その恐るべき性能

  • 4

    ワグネル傭兵が搭乗か? マリの空港で大型輸送機が…

  • 5

    ウクライナ軍の捕虜になったロシア軍少佐...取り調べ…

  • 6

    ウクライナ「戦況」が変わる? ゼレンスキーが欲しが…

  • 7

    日本の他殺被害者のうち0歳児が断トツで多い理由

  • 8

    イラン製「カミカゼドローン」に日米欧の電子部品が.…

  • 9

    ロシア軍スホーイ戦闘機など4機ほぼ同時に「撃墜」され…

  • 10

    ワグネルに代わるロシア「主力部隊」の無秩序すぎる…

  • 1

    黒海艦隊「提督」の軽過ぎた「戦死」の裏に何があったのか

  • 2

    中国の原子力潜水艦が台湾海峡で「重大事故」? 乗組員全員死亡説も

  • 3

    最新兵器が飛び交う現代の戦場でも「恐怖」は健在...「スナイパー」がロシア兵を撃ち倒す瞬間とされる動画

  • 4

    本物のプーチンなら「あり得ない」仕草......ビデオ…

  • 5

    マイクロプラスチック摂取の悪影響、マウス実験で脳…

  • 6

    ウクライナ軍の捕虜になったロシア軍少佐...取り調べ…

  • 7

    広範囲の敵を一瞬で...映像が捉えたウクライナ軍「ク…

  • 8

    これぞ「王室離脱」の結果...米NYで大歓迎された英ウ…

  • 9

    「ケイト効果」は年間1480億円以上...キャサリン妃の…

  • 10

    ロシア黒海艦隊、ウクライナ無人艇の攻撃で相次ぐ被…

  • 1

    イーロン・マスクからスターリンクを買収することに決めました(パックン)

  • 2

    黒海艦隊「提督」の軽過ぎた「戦死」の裏に何があったのか

  • 3

    中国の原子力潜水艦が台湾海峡で「重大事故」? 乗組員全員死亡説も

  • 4

    <動画>ウクライナのために戦うアメリカ人志願兵部…

  • 5

    コンプライアンス専門家が読み解く、ジャニーズ事務…

  • 6

    「児童ポルノだ」「未成年なのに」 韓国の大人気女性…

  • 7

    「これが現代の戦争だ」 数千ドルのドローンが、ロシ…

  • 8

    サッカー女子W杯で大健闘のイングランドと、目に余る…

  • 9

    「この国の恥だ!」 インドで暴徒が女性を裸にし、街…

  • 10

    ロシア戦闘機との銃撃戦の末、黒海の戦略的な一部を…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story

MOOK

ニューズウィーク日本版別冊

ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中