1人の子供がいじめられ続けることで、全体の幸せが保たれる社会...「神学」から考える人権

2021年9月2日(木)12時12分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

■人権とは「発明」か、「発見」か?

カールセン: ぼくは「人権」って、人間がつくり出した概念だと思います。共同体で生きていくとき、他者と調和して生活するために必要な考えだった......そんな気がしています。「神様」の存在と似ているかも。神も、人が生きる都合に合わせて考え出したものだよね。

楊: 私も人権や尊厳は、社会がうまく機能するために、言うなれば建前として必要なものとして、人がつくった概念だと思います。ある種の歯止めみたいな。

金: 私はいままで、人権や尊厳の根拠は世界人権宣言にあると考えていました。けど、世界人権宣言が成立したとき、その根拠には人間の尊厳に対する信念があったと考えるなら、人権や尊厳が先なのか、世界人権宣言が先なのか、わからなくなってしまいました。歴史を考えると、人権や尊厳が最初からあったようには思えません。やはり、歴史のなかで人間がつくり上げた、あるいは発見したということなのかな。仮に人間がつくったのだとしたら、それは自己防衛のためだったんじゃないでしょうか。(略)

教授: 皆さんの多くは、人権やその土台である人間の尊厳というものは実体的には存在しない。社会全体の利益のために建前としてあることにする、社会的に約束された規範だと考えているようですね。

では、人権や人の尊厳は、人間によって「発明」されたものなのでしょうか、それとも、「発見」されたものなのでしょうか。どちらの立場を取るかによって、かなり異なる人権観が成り立ちそうです。

■犠牲者のうえに社会的調和が成り立つ二つのフィクション

教授: 人権とは「発明」なのか「発見」なのか? その問いをふまえて、二つの小説『くじ』と『オメラスから歩み去る人々』について考察しましょう。事前に配布したものを読んできていますよね?

『くじ』(The Lottery)はシャーリイ・ジャクスン(Shirley Jackson:1916 -1965)というアメリカ人作家による短編です。彼女の名を冠した賞もあるほど、知られた作家です。『くじ』はこんな話です。

舞台はある小さな村。三百人ほどが暮らしています。真夏のある日、幸運を期待する様子で村人たちが広場に集まりました。子どもは石を集め、大人はくじ引きの儀式の準備をしています。この村では毎年、住人全員でくじ引きを行うのです。

儀式は楽しい雰囲気ではじまりました。しかし、徐々に緊張感が高まっていきます。そして、やがて、このくじ引きが重大な意味を持っているということが明らかになります。物語は、くじに当たった人を石で打ち殺すというショッキングな結末で終わります。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウクライナ南部ガス施設に攻撃、冬に向けロシアがエネ

ワールド

習主席、チベット訪問 就任後2度目 記念行事出席へ

ワールド

パレスチナ国家承認、米国民の過半数が支持=ロイター

ビジネス

シンガポールのテマセク、事業3分割を検討=ブルーム
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
2025年8月26日号(8/19発売)

中国の圧力とアメリカの「変心」に危機感。東アジア最大のリスクを考える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 2
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人」だった...母親によるビフォーアフター画像にSNS驚愕
  • 3
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家のプールを占拠する「巨大な黒いシルエット」にネット戦慄
  • 4
    【クイズ】2028年に完成予定...「世界で最も高いビル…
  • 5
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 6
    広大な駐車場が一面、墓場に...ヨーロッパの山火事、…
  • 7
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大…
  • 8
    【クイズ】沖縄にも生息、人を襲うことも...「最恐の…
  • 9
    習近平「失脚説」は本当なのか?──「2つのテスト」で…
  • 10
    夏の終わりに襲い掛かる「8月病」...心理学のプロが…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 3
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 4
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 5
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 6
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 7
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 8
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 9
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 10
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 3
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 9
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 10
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中