最新記事

気候変動

温暖化を止めるのに必要なのは、人類が歴史的に「苦手」としてきた行動だ

COUNTRY VS. PLANET

2021年8月31日(火)19時48分
ヨシュカ・フィッシャー(元ドイツ外相)
ギリシャの山火事

気候変動に伴う災害は増える一方(ギリシャの山火事、5月) VASSILIS PSOMASーREUTERS

<異常気象が続いても実効性のある温暖化対策が進む気配はない。最大の問題は「国家」という枠組みだ>

この夏は、人災とも言うべき気候変動に伴う自然災害が世界各地で見られた。北米の西岸は熱波に襲われ、ヨーロッパや中国の長江沿いでは激しい降雨と洪水によって多数の死者が出た。ギリシャやトルコ、南イタリア、北アフリカ、そしてシベリアでさえも、記録的な山火事に見舞われた。

さらに、8月9日に発表された国連のIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の最新報告書は、人間が地球温暖化をもたらしたことは疑う余地がないと、従来より強い表現で断言した。

報告書は、温暖化対策の枠組み「パリ協定」で設定された目標の達成が危ういとも指摘する。目標は地球の平均気温の上昇幅を産業革命前のレベルから2度未満(できれば1.5度未満)に抑えるというもの。しかし、この目標は温室効果ガス(特に二酸化炭素)排出の大幅削減に向けて直ちに行動を起こした場合にのみ達成可能だという。

残念だが、そうした行動は取られそうにない。しかも、この目標は気候変動の危機を緩和するために最低限必要なもので、終わらせるためのものではない。

パリ協定には法的拘束力がなく、加盟国はそれぞれが適切だと考える目標を自由に設定できた。加盟国の中には気候変動が予測より緩やかに進行することを期待していた国もあったろうが、事はそうは進まず、残された時間は少なくなるばかりだ。

気候変動に取り組む上での大きな問題は、対策を国民国家のエゴの上に成り立つ国際社会に頼らざるを得ないことだ。人類生存の基盤を用意するという国際的な共同責任の在り方は、そうした旧来の仕組みとは相いれない。この溝を埋めることが、21世紀の大きな課題になる。

IPCCによると気候変動の破滅的影響を避けるには、約10年で世界経済を根本的につくり変える必要がある。だがそこに至るには、技術や経済の面はもちろん、政治面の障壁も大きい。どれだけ強大な国家でも、単独ではこの問題を解決できない。全人類の連帯と協力が欠かせない。

人類は協力体制作りが苦手

歴史が示すように、世界規模の本物の協力体制をつくり上げるのは人類が不得手とするところだ。今こそ大国同士が連携してリーダーシップを発揮する必要がある。大国とは2大超大国であるアメリカと中国はもちろん、EUやインドなども含む。

現在、米中間の対立は、主にテクノロジーを舞台に繰り広げられている。技術は気候変動対策にとって特に大切な分野だ。

人類には地球環境を守る責任があるという考えには、知識と力で環境を制御できるという前提がある。それにはデータの収集と共有、利用を、できればリアルタイムで進められるシステムが必要だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アラブ・イスラム諸国、ドーハで首脳会議 イスラエル

ワールド

イスラエル首相、トランプ氏に事前通知 カタール空爆

ワールド

米中、TikTok巡り枠組み合意 首脳が19日の電

ワールド

再送-米、ロ産石油輸入巡り対中関税課さず 欧州の行
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 3
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く締まった体幹は「横」で決まる【レッグレイズ編】
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 6
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 7
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中