最新記事

軍需産業

アフガニスタンの20年戦争で「国防企業がボロ儲け」というウソ

2021年8月26日(木)11時50分
フレッド・カプラン(スレート誌コラムニスト)
F15戦闘機

国防企業はアフガニスタン以外で儲けてきた(ボーイングのF15戦闘機) MARK J. REBILASーUSA TODAY SPORTSーREUTERS

<アメリカ最長の戦争が軍需産業に莫大な利益をもたらしたという陰謀論めいた言説は本当なのか>

20年間続いたアフガニスタン戦争は、アメリカの5大国防企業にとって「途方もない大成功」だった──このように指摘したインターネットメディア「インターセプト」の記事が話題になっている。

記事によれば、2001年9月18日(アメリカでアフガニスタン攻撃を認める武力行使容認法が成立した日)に大手国防企業5社──ボーイング、レイセオン、ロッキード・マーティン、ノースロップ・グラマン、ゼネラル・ダイナミックス──の株式に2000ドルずつ合計1万ドル投資していれば、その金は記事の執筆時点で9万7295ドルに増えている計算だという。

一方、アメリカの代表的な株価指数S&P500に連動する投資信託に同じ金額を投資した場合は6万1613ドルにしかなっていない。つまり、5大国防企業の株価は市場平均を58%上回る成績を残しているというのだ。

しかし、この指摘は控えめに言っても正確性を欠く。軍産複合体が存在することは事実だし、この20年間、国防産業がほかの多くの産業を上回るペースで成長してきたことも間違いない。けれども、5大国防企業の成長は、アフガニスタンとはほぼ無関係だ。

ボーイングは、民間旅客機で利益の大半を上げている。国防部門の大口のビジネスは、B1爆撃機、C17輸送機、V22垂直離着陸機オスプレイ、F15戦闘機やF18戦闘機など。これらの兵器は、アフガニスタンでは大きな役割を果たしていない。

ロッキード・マーティンは、軍用ヘリ「ブラックホーク」や多連装ロケットシステムにより、アフガニスタン戦争でそれなりに利益を得ている。しかし、同社の主な収益源は、F35ステルス戦闘機、イージス艦の戦闘システム、そして指揮統制、サイバー戦争、宇宙通信用の電子機器などの契約だ。

アフガン戦争がなくても利益は同じ?

ほかの3社にも同じことが言える。つまり、アメリカがアフガニスタンで戦争をしていなかったとしても、5大国防企業の利益は現在とあまり違いはなかったと見なせる。

この20年でアメリカの国防予算は大きく膨張した。01年には3050億ドル余りだった金額が、22年は7780億ドル近くに達するだろう。

国防予算が膨れ上がった要因はいくつもあるが、その最大の要因は、中国およびロシアとの緊張が高まったことだ。これにより、空軍と海軍は高価な兵器を新たに購入することが正当化された。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ロシア財務省、石油価格連動の積立制度復活へ 基準価

ワールド

台湾中銀、政策金利据え置き 成長予想引き上げも関税

ワールド

現代自、米国生産を拡大へ 関税影響で利益率目標引き

ワールド

仏で緊縮財政抗議で大規模スト、80万人参加か 学校
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 4
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 7
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 9
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 10
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中