最新記事

遺跡

ストーンヘンジの大砂岩の一部は恐竜時代よりも古かった

2021年8月13日(金)18時40分
松岡由希子

ストーンヘンジの貴重な標本からストーンヘンジの岩の化学組成が調べられた danaibe12-iStock

<英ブライトン大学の研究チームは、CTスキャンやX線などを用いてストーンヘンジの標本を分析し、大砂岩の地質構造や化学組成について調べた...... >

ストーンヘンジは、イングランド南部で約4500年前の新石器時代に建造された環状列石(ストーンサークル)で、1986年にはユネスコ(国連教育科学文化機関)の世界遺産に登録された。

円陣状に立ち並ぶ巨大な大砂岩(サルセン石)のうち「ストーン58」と名付けられた巨石には、1958年の修復プロジェクトで、直径2.5センチの穴が3つ開けられ、金属棒が埋め込まれている。

その際、「ストーン58」から掘削された直径2.5センチ、長さ1.08メートルの円筒形の標本は、この補強作業を手がけたロバート・フィリップス氏に贈られ、フィリップ氏の退職に伴って一時米国へ渡ったが、2018年、イングランドで歴史的建造物を管理する政府系機関「イングリッシュ・ヘリテッジ」に研究目的で返還された。

大砂岩の99.7%は石英だった

英ブライトン大学の地理学者デービッド・ナッシュ教授らの研究チームは、この標本をもとにストーンヘンジにまつわる謎の解明に取り組んでいる。2020年7月に発表した研究論文では「大砂岩はストーンヘンジから北25キロのウィルトシャー州ウェストウッズから運ばれた」ことを明らかにした。

研究チームは、CTスキャンやX線、顕微鏡などを用いてこの標本をさらに詳しく分析し、大砂岩の地質構造や化学組成について調べた。一連の研究成果は、2021年8月4日にオープンアクセスジャーナル「プロスワン」で掲載されている。

これによると大砂岩の99.7%は石英であった。石英の結晶がモザイク状に組み合わさることで砂サイズの石英粒がしっかりと固まり、崩壊や侵食による影響を受けづらい組成となっている。

10億〜16億年前に形成されたものもあった

また、大砂岩を組成する石英粒には、恐竜時代より古いものも含まれていた。大砂岩の砂質堆積物は2300万〜6600万年前の古第三紀に堆積したが、標本のネオジム同位体比を分析したところ、その一部は6600万〜2億5200万年前の中生代の岩石から侵食したものとみられ、10億〜16億年前の中原生代に形成されたものもあったという。

研究論文の筆頭著者でもあるナッシュ教授は「この歴史的な遺跡の試料を研究する機会に恵まれるのは、科学者として非常にありがたい。ストーンヘンジは法的に厳しく保護されており、今日、このような試料を入手することは極めて困難だ」と感謝の意を述べている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

トランプ氏、加・メキシコ首脳と貿易巡り会談 W杯抽

ワールド

プーチン氏と米特使の会談「真に友好的」=ロシア大統

ビジネス

ネットフリックス、ワーナー資産買収で合意 720億

ビジネス

米国株式市場=小幅高、利下げ期待で ネトフリの買収
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 2
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い国」はどこ?
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「ボタン閉めろ...」元モデルの「密着レギンス×前開…
  • 6
    左手にゴルフクラブを握ったまま、茂みに向かって...…
  • 7
    主食は「放射能」...チェルノブイリ原発事故現場の立…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 10
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 1
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 2
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 5
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 6
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 7
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 8
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 9
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 10
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中