最新記事

変異株

ワクチン接種がすすんでも、ワクチン耐性株の出現リスクが高まる......と数理モデル

2021年8月3日(火)18時33分
松岡由希子

人口約の60%がワクチンを接種した時点でもウイルス耐性株の出現確率は上昇するという......REUTERS/Andrew Kelly

<ワクチンの接種だけでは新型コロナウイルスの変異を阻止できないことを示す研究結果が明らかとなった>

新型コロナウイルスの世界的な感染拡大を収束に向かわせるためには、社会全体でワクチンの接種率を高めることが不可欠だ。しかし、ワクチンの接種だけでは新型コロナウイルスの変異を阻止できないことを示す研究結果が明らかとなった。

ワクチン耐性を持つ変異株が出現するリスク高まる

オーストリア科学技術研究所(IST)の研究チームは、感染症の患者数の推移を表わす基本的な数理モデルのひとつ「SIRモデル」を拡張し、ワクチン接種率、新型コロナウイルスへの感染率、ワクチンへの耐性を持つ変異株の出現確率という3つの因子の相互作用を付加したモデルに改変した。

この感染症数理モデルを用いて、3年にわたる人口1000万人のワクチン接種率とマスク着用やソーシャルディスタンスの徹底をはじめとする非薬理的介入措置の厳格さがウイルス耐性株の出現確率に与える影響について調べた。

2021年7月30日にオープンアクセスジャーナル「サイエンティフィック・リポーツ」で発表された研究論文によると、ワクチン接種が速くすすみ、短期間で十分な免疫を獲得した場合、ウイルス耐性株の出現確率は低下する。

しかし、人口の多くがワクチンを接種した時点で非薬理的介入措置(マスク着用、ソーシャルディスタンスの徹底など)を緩和すると、ウイルス耐性株の出現確率は大幅に上昇する。ウイルス耐性株の出現確率が最も高くなるのは、人口1000万人のうち約60%がワクチンを接種した時点だ。

つまり、人口の多くがワクチンを接種していても、感染が制御されていなければ、ワクチンへの耐性を持つ変異株が出現するリスクは高まる。

ワクチン接種が全体で完了するまで感染予防対策を徹底

研究論文では「ウイルス耐性株を消滅させるため、人口の大多数がワクチンを接種しても、相応の期間にわたって非薬理的介入措置を実施し、感染を低く抑制すること」を推奨し、ワクチン接種が全体で完了するまで、非薬理的介入措置を継続し、感染予防対策を徹底するよう呼びかけている。

また、このような措置の効果を高める対策として、検査体制の拡充や幅広い検査の実施、厳格な接触者追跡、旅行規制などを挙げている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ECB、金利変更の選択肢残すべき リスクに対応=仏

ビジネス

ECBは年内利下げせず、バークレイズとBofAが予

ビジネス

ユーロ圏10月消費者物価、前年比+2.1%にやや減

ワールド

エクソン、第3四半期利益が予想上回る 生産増が原油
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 5
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    海に響き渡る轟音...「5000頭のアレ」が一斉に大移動…
  • 8
    必要な証拠の95%を確保していたのに...中国のスパイ…
  • 9
    【クイズ】12名が死亡...世界で「最も死者数が多い」…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 6
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 7
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 8
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 9
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 10
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 8
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 9
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中