最新記事

ワクチン

ワクチン未接種なら入院リスクは29倍 米CDC研究

2021年8月31日(火)16時20分
青葉やまと

デルタ株は? 一定の効果を維持

強い感染力をもつデルタ株に関しては、ワクチンの効果はどうだろうか? デルタ株に限定した場合、依然有効ではあるものの、その効果はやや衰える可能性があるようだ。CDCは、アメリカの6つの州で働く医療関係者などを対象に、ワクチン接種の有無と感染状況を調査した。その結果が8月24日に発表され、報告書はデルタ株について、ワクチンの効果が弱まっていることが確認されたとしている。

報告書によると、2020年12月中旬から2021年8月中旬までの調査期間中、デルタ株が少数派であった期間には、ワクチンは91%の感染予防率を持っていた。ところが、デルタ株の症例が過半数を超える期間では、66%にまで低下していたという。

CDCは報告書のなかで、「新型コロナウイルス・ワクチンの感染予防効果がある程度減少」したことが確認されたが、「感染リスクを3分の2低下させる効果が維持されており、新型コロナ・ワクチンの重要性と恩恵が明らかになった」と結論づけている。

なお、症例が数十件単位と少ないことと、ワクチン接種後の経時変化によって自然に抗体が減少している可能性があることから、デルタ株に関する断定的な情報にはならないとCDCは付記している。

ウイルス数は変わらず

感染者が保有するウイルスの量は、感染の広まりやすさと密接に関係している。ウイルス量についてCDCが分析したところ、ワクチンによる明確な変化はみられなかった。感染者から採取したサンプル中のウイルスの数の多さを示す「Ct値」について、デルタ株がケースの大半を占めるようになった7月時点のデータをCDCが調査したところ、ワクチン接種の有無による顕著な差異がない結果となった。

ことデルタ株に関しては、ワクチン接種後も感染時のウイルス量がほぼ変わらないことがすでに報告されており、これが感染を広めやすくしている理由のひとつだと考えられている。今回の研究は、これを裏付けるものになりそうだ。

なお、Ct値とは、PCR検査の過程で何回ウイルスを増幅させたかを示すものだ。新型コロナウイルスのPCR検査では、ウイルスのRNAをDNAに逆転写したあと、温度を変化させることでDNAを段階的に増幅させてゆく。1回のサイクルごとにDNA量は2倍になり、何回のサイクルで検出閾値に達したかをCt値と呼ぶ。

Ct値が低いほど、もともとのサンプル中に多くのウイルス量が含まれていたことになる。基準は国や検査機関などによって異なるが、一般には40回のサイクル後に閾値に達しない場合、陰性と判定される。

以前の生活を取り戻す鍵に

デルタ株の拡大によって状況はやや変わりつつあるものの、少なくとも従来株との混在データでは、前述のとおり入院リスクを29分の1に押し下げる効果が確認された。CDCのロシェル・ワレンスキー所長は「ワクチンはこのパンデミックに対処するうえで、私たちが持つベストな手段なのです」と強調する。

アメリカでは、現時点でワクチン未接種の人々の動向に注目が集まっている。こうした人々に接種が浸透するか否かで、来年春以降の社会的状況が変わるとの見方もある。ニュース専門局の米CNBCは、米感染症対策トップのアンソニー・ファウチ博士の発言として、ワクチン接種のさらなる普及が社会の正常化の鍵だとする認識を伝えている。

ファウチ博士はCNNの報道番組に出演し、感染が拡大しやすい冬場を乗り切り、さらにワクチン接種を現在より多くの人々が受けることができれば、「春になれば、たとえばレストランや劇場といった私たちが望んできたことを再開するなど、ある程度の正常な状態に戻りはじめることができるかもしれない」との認識を示している。

アメリカではワクチンに懐疑的な立場から接種を希望しない人々が目立つが、一方の日本では、接種したくても予約を取れない人々が若い世代を中心に多い。病床がひっ迫するなか、入院リスクを29分の1に低減するという調査結果が発表されたいま、改めて円滑なワクチン接種の推進が求められそうだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏「北朝鮮問題は解決可能」、金正恩氏と良好

ワールド

トランプ氏、ガザ停戦「1週間以内に実現可能」

ワールド

イラン、IAEAの核施設視察を拒否の可能性 アラグ

ワールド

「トランプ氏の希望に応じる」、FRB議長後任報道巡
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本のCEO
特集:世界が尊敬する日本のCEO
2025年7月 1日号(6/24発売)

不屈のIT投資家、観光ニッポンの牽引役、アパレルの覇者......その哲学と発想と行動力で輝く日本の経営者たち

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 2
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 3
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急所」とは
  • 4
    富裕層が「流出する国」、中国を抜いた1位は...「金…
  • 5
    ロシア人にとっての「最大の敵国」、意外な1位は? …
  • 6
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 7
    韓国が「養子輸出大国だった」という不都合すぎる事…
  • 8
    伊藤博文を暗殺した安重根が主人公の『ハルビン』は…
  • 9
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 10
    【クイズ】北大で国内初確認か...世界で最も危険な植…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の「緊迫映像」
  • 3
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々と撤退へ
  • 4
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 5
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 6
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 7
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 8
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり…
  • 9
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 10
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 8
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中