最新記事

惑星衝突

恐竜絶滅時に起きた高さ1500mの津波 その痕跡がアメリカの地下に眠っていた

2021年8月3日(火)17時45分
青葉やまと

小惑星が衝突したときに起きた津波の痕跡が発見された Naeblys-iStock

<ユカタン半島を直撃した小惑星は、想像を絶する規模の大波を引き起こした>

太古の世界を支配し、その後跡形もなく消え去ってしまった恐竜。その絶滅の経緯については現在でもさまざまな学説が議論されているが、宇宙から飛来した小惑星が根源になったとの説が最も有力だ。

今からおよそ6600万年前の白亜紀末期、宇宙から飛来した小惑星がメキシコ東部のユカタン半島近海を直撃したとされる。衝撃でチリが舞い上がり、太陽光は数年間というスパンで地表にほぼ降り注がなくなった。地球規模の寒冷化によって生物に適さない環境となったのに加え、光合成が行えずにエサとなる植物が減少したことから、恐竜を含めた地球上の生物の75%が死滅した。

小惑星の落下ポイントに近い地点では、さらに別の要因が生態系にインパクトを与えることとなる。地表への衝突エネルギーによって大規模な津波が起きていたのだ。その規模についてはさまざまなパターンで推定が進められているが、一説によると北米大陸を襲った第1波の高さは1500メートルに及び、その後も規模を少しずつ小さくしたものが繰り返し押し寄せたという。この説を裏付ける波形の化石が、メキシコ湾に臨むアメリカ南部のルイジアナ州で発見された。

1-s2.0-S0012821X21003186-gr004.jpg

(Image credit: Kinsland, GL. Et al. Earth and Planetary Science Letters (2021); Kaare Egedahl)

エネルギー会社の調査で浮かんだ謎の画像

発見のきっかけとなったのは、エネルギー企業が発見した奇妙な地形パターンだった。ルイジアナ州に広がるイアット湖とその湖畔は、大自然を身近に感じるレクリエーションの場として親しまれている。ヒノキが広がる湿地帯ではビーバーが目撃されているほか、バス釣りに加え、春と秋には渡り鳥の観察も楽しむことができる。石油や天然ガスなど炭化水素エネルギーの採掘に注力する米デボン・エナジー社は、このイアット湖付近のエリアに埋蔵されたエネルギー資源の可能性に目を付けた。

そこでデボン社は、湖の付近で地震探査を行うことにした。地震探査とは、爆発などによって大規模の音波を人工的に発生させ、地下の堆積層に反響した波を拾うことで深部の構造を推定する手法だ。しかし、その結果に担当者は首を捻る。得られた解析画像には、小さなシワを周期的に繰り返したような、これまで見たこともないようなパターンが表れていたのだ。

地形の正体を見極めたいデボン社は、ルイジアナ大学ラファイエット校に画像データの解析を依頼する。このことが、白亜紀末期の大イベントに迫る発見のきっかけとなった。同校の地球科学教授であるゲーリー・キンズランド教授は、科学ニュースを伝えるライブ・サイエンス誌に対し、その瞬間の驚きをこう語っている。「一目見た私は、『嘘だろう!?』と口走ったのです。」

1-s2.0-S0012821X21003186-gr001.jpg

(Image credit: Kinsland, GL. et al. Earth and Planetary Science Letters (2021); Original base map by Ron Blakey/Colorado Plateau Geosystems; Nina Zamanialavijeh)

地上最大のメガリップルマーク

地震探査の画像が捉えたのは、6600万年前の小惑星の衝突によって巨大な津波が起きたという証拠そのものだった。一般に、波とは単なる水面の変動であり、その場限りで消えてしまう現象だ。しかし、長期間あるいは巨大な水の流れに晒されることで、その姿が残ることがある。リップルマーク(漣痕、れんこん)と呼ばれる現象だ。波打ち際や砂丘などの砂紋もリップルマークの一種で、波あるいは風の力で地表に周期的な紋様が刻まれたものだ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

ブラジル下院、ボルソナロ氏の刑期短縮法案を可決 大

ワールド

訂正-タイ・カンボジア紛争、戦火再燃に戸惑う国境地

ワールド

日米が共同飛行訓練、10日に日本海で 米軍のB52

ワールド

米ファイザー、スイス事業縮小 200人強削減方針と
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア空軍の専門家。NATO軍のプロフェッショナルな対応と大違い
  • 2
    トランプの面目丸つぶれ...タイ・カンボジアで戦線拡大、そもそもの「停戦合意」の効果にも疑問符
  • 3
    「何これ」「気持ち悪い」ソファの下で繁殖する「謎の物体」の姿にSNS震撼...驚くべき「正体」とは?
  • 4
    死者は900人超、被災者は数百万人...アジア各地を襲…
  • 5
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキン…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    「正直すぎる」「私もそうだった...」初めて牡蠣を食…
  • 8
    「安全装置は全て破壊されていた...」監視役を失った…
  • 9
    イギリスは「監視」、日本は「記録」...防犯カメラの…
  • 10
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 7
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 8
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 9
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中