最新記事

人権問題

小林賢太郎批判の「人権団体」、反差別の矛盾が酷い──日本のメディアにも課題

2021年7月30日(金)19時02分
志葉玲(フリージャーナリスト)
サイモン・ウィーゼンタール・センターのツイッターアカウント

サイモン・ウィーゼンタール・センターのツイッターより

ナチス・ドイツによるユダヤ人大虐殺(ホロコースト)を揶揄するようなコントを過去に行っていたことで、東京五輪・パラリンピック開閉会式でのショーディレクターを解任された小林賢太郎氏。人類史上最悪の虐殺であるホロコーストを揶揄することは許されない、それは筆者も異論はない。ただし、本件についての報道のあり方については、いささか気になる点もある。それは、小林氏のコントへの反応に関して、「サイモン・ウィーゼンタール・センター」の声明を取り上げ、同団体を「人権団体」として紹介していることだ。

「人権団体」と紹介すべき団体なのか?

サイモン・ウィーゼンタール・センター(SWC)は、米国のロサンゼルスに本拠地を置き、1977年に創設された。ホロコーストに関する啓蒙活動や「反ユダヤ」的な言動や活動について、監視・抗議を行っている団体であり、日本の報道では「人権団体」として紹介されることが多い。だが、SWCはユダヤ人に対する差別や暴力には抗議する一方で、イスラエルが行っている国際人道法違反は擁護し、イスラエルによるパレスチナ占領等への批判に「反ユダヤ」のレッテル貼りをすることが多々あるなど(関連情報)、シオニズム*団体としての活動も目立つ。ヒューマン・ライツ・ウォッチやアムネスティ・インターナショナルなど国や民族に関係なく人権を普遍的ものとして活動する人権団体とSWCとでは、分けて見る必要があるのではないか。

*シオニズム:ユダヤ教徒を民族として位置づけ、「ユダヤ民族」による国家をつくることで、反ユダヤの迫害から逃れる安住の地を得ようとする思想。シオニズムはイスラエル建国の原動力となった一方、パレスチナ占領を正当化する口実にもされている。

イスラエル軍による虐殺は批判せず

SWCのシオニズム団体としての性質は、例えば、イスラエル軍によるパレスチナ自治区ガザへの大規模攻撃(2014年)への反応からも見て取れる。小林氏解任について日本のメディアにコメントしたSWCのエイブラハム・クーパー副代表は、2014年7月の来日時に日本記者クラブで会見。クーパー氏は、当時、激化していたイスラエル軍によるガザ攻撃に対し、「多くの人々の血が流れていることへの責任は(ガザでの政府与党/武装組織である)ハマスにある」と主張。イスラエル軍によるガザ市民への無差別攻撃には一切言及しなかった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ノジマ、10月10日を基準日に1対3の株式分割を実

ワールド

ベトナム、水産物輸出禁止の再考を米に要請

ワールド

イスラエル軍、最大都市ガザ市占領へ地上攻撃開始=ア

ワールド

小林氏が総裁選へ正式出馬表明、時限的定率減税や太陽
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 3
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く締まった体幹は「横」で決まる【レッグレイズ編】
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 6
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 7
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 8
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 10
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中