最新記事

映画

カラフルで楽しさ満載の『イン・ザ・ハイツ』で久々に味わう夏の解放感

Bright-Colored Summer Fun

2021年7月30日(金)17時01分
デーナ・スティーブンズ(映画評論家)
映画『イン・ザ・ハイツ』

ウスナビ(左)とバネッサは町を出て新しい人生を築くことを夢見ている HBO MAX-SLATE

<ニューヨークの中南米系移民社会を描いたミュージカル映画『イン・ザ・ハイツ』は、気軽に楽しめて抜群に軽やか>

オープニングでかき氷屋の男がキャッチーな口上を歌いながら売るかき氷にも似て、『イン・ザ・ハイツ』はこの夏、特にうれしいエンターテインメントだ。

2008年にブロードウェイで初演しトニー賞4冠に輝いたミュージカルを、ジョン・M・チュウ監督(『クレイジー・リッチ!』)が映画化した。ちょい役のかき氷売りに扮したのはオリジナル版で作詞作曲と主演を務め、後に傑作『ハミルトン』で世界に名をはせたリン・マヌエル・ミランダだ。

今回ミランダはプロデューサーとして裏方に回り、主演は『ハミルトン』のアンソニー・ラモスにバトンタッチ。ラモスは再開発と地価の高騰が忍び寄るマンハッタンのワシントンハイツ地区で食料品店を営む若者ウスナビを、完璧に演じ切った。

かき氷は暑い日に涼を取るには最高だが、栄養はないし、すぐに溶けて砂糖水になる。そんな点でも『イン・ザ・ハイツ』はかき氷に近い。

舞台作品の映像化は、どんなものでも難しい。突然登場人物が歌いだす演出に拒絶反応を示すアンチ派も多いミュージカルとなれば、ハードルはさらに高くなる。

この映画を見てミュージカル嫌いを克服する人はいないだろう。また、もともとありきたりなストーリーをさらにセンチメンタルに味付けした点に舞台版のファンは不満を抱くかも知れない。

それでもミュージカル映画に立ちはだかる最大の難問はクリアした。この状況ならこのキャラクターが突然歌いだすのも当然だと観客が納得できる形で、ミュージカルナンバーを盛り上げたのだ。

主要なキャラクターが次々に紹介される華やかなタイトル曲には、ラップと歌と語りが自然に同居する。語りは音楽のリズムを邪魔することなく、オペラの朗唱のように物語を先へと引っ張っていく。

歌が終わり会話に移った途端、流れが途切れるのは惜しい。キアラ・アレグリア・ヒューディーズの脚本は、舞台でも最大の弱点とされた。

とはいえそれほど待たずに次の歌が始まるから、退屈はしない。

ほぼ全ての主要キャラに、夢や希望を歌うシーンがある。とりわけ地域の住民に母と慕われる老女クローディアが、キューバから移民した子供時代を振り返るソロ曲は絶品。演じるのは、ブロードウェイでもこの役で話題をさらったオルガ・メレディスだ。

若者たちの恋と希望と

主人公のウスナビは、幼い頃ドミニカ共和国からヒスパニック系が多いワシントンハイツに移り住んだ。

孤児になってからは母代わりのクローディアに育てられ、今は両親が遺した店を売って祖国に戻ることを夢見ている。彼が思いを寄せるバネッサ(メリッサ・バレラ)は、町を出てファッションデザイナーとして成功するのが夢だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日産が追浜工場の生産終了へ、湘南への委託も 今後の

ビジネス

リオ・ティント、鉄鉱石部門トップのトロット氏がCE

ワールド

トランプ氏「英は米のために戦うが、EUは疑問」 通

ワールド

米大統領が兵器提供でのモスクワ攻撃言及、4日のウク
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    真っ赤に染まった夜空...ロシア軍の「ドローン700機」に襲撃されたキーウ、大爆発の瞬間を捉えた「衝撃映像」
  • 2
    「史上最も高価な昼寝」ウィンブルドン屈指の熱戦中にまさかの居眠り...その姿がばっちり撮られた大物セレブとは?
  • 3
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長だけ追い求め「失われた数百年」到来か?
  • 4
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 5
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 6
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 7
    【クイズ】次のうち、生物学的に「本当に存在する」…
  • 8
    「このお菓子、子どもに本当に大丈夫?」──食品添加…
  • 9
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 10
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 4
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 5
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 8
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 9
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 10
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中