最新記事

インタビュー

米欧にも中露にも取り込まれない...ポーランド首相、独占インタビュー

POLAND AT CENTER STAGE

2021年7月30日(金)17時52分
ジョシュ・ハマー、マシュー・ティアマンド

ところが新政権になって方針が変わった。それでEUとの関係を修復できると期待したのだろうが、それは間違いだ。ドイツ=EUではない。ドイツにはドイツの利害があり、たまたまこの問題では、それがロシアの利害と一致した。しかしそれは、大西洋をまたいだ米欧同盟の利害とは一致しない。われわれはノルドストリーム2を阻止し、ロシアが天然ガスを売って稼ぎ、その資金を軍事力強化に振り向けるのを阻止したいと思っている。

210803p42po_03.jpg

ロシアのプーチン大統領 SPUTNIK PHOTO AGENCY-REUTERS

――あなたは低所得者向けの住宅建設や子育て支援などで、EU圏でも有数の進歩的な社会政策を実施し、しかも財政赤字を増やさずにいる。どうして可能なのか?

財務省に最新のITツールを導入したからだ。人工知能(AI)のアルゴリズムを税務署の仕事に全面的に採用した。職員の訓練やシステム開発の手間はかかったが、とにかくシステム全体を刷新した。

それで税収が劇的に増え、おかげで税率を下げることもできた。中小企業の法人税率は9%に、個人の所得税率も18%から17%に引き下げた。課税控除の範囲もヨーロッパで最高水準に広げる計画だ。財政システムの改善も進めている。

――最後に、巨大IT企業との関係について。このところ、貴国の政府は積極的な動きを見せている。アメリカのグローバルなIT企業やSNS大手に対し、国内法や言論の自由を保障したポーランド憲法に抵触する検閲行為を理由に罰金を可能にする法制を検討していると聞く。法制化の見通しは? いつ頃から実施されるのか?

今の時代は、そういったルールを決める者が社会の、そして国家の運命を握る。だからインターネットのプラットフォームやネットワーク、それに知財は土地や建物よりも重要だ。デジタル製品を造る工場や原料よりも重要だ。その力関係は複雑に絡み合っていて、まるで巨大なジグソーパズルだ。

今は、誰がルールを決めているのか分からない。一国の政府にはそんな能力もない。結局は巨大IT企業が勝手に決めている。たいていは自社に都合のよいルールだが、それが社会にとって有益とは限らない。だから国家が介入して、検閲や独占的地位の乱用を防がねばならない。

わが国の法案はまだ議会で審議中だが、必ず成立させる決意だ。できればEUと一緒にやりたいが、無理ならば自国だけでもやる。

現在は2つの面でEUと協議している。1つは言論の自由を守り検閲を排除すること。もう1つはデジタル課税、つまりIT企業が実際に収益を上げている国で、その利益に課税する仕組みだ。ルクセンブルクやキプロス、スイスなどのタックスヘイブンを利用した税金逃れは認められない。そんなやり方では、われわれの経済が持たない。

ニューズウィーク日本版 2029年 火星の旅
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年5月20日号(5月13日発売)は「2029年 火星の旅」特集。アメリカが「赤い惑星」に自給自足型の都市を築く日

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

印パ、停戦後の段階に向け軍事責任者が協議へ 開始遅

ワールド

米中、関税率を115%引き下げ・一部90日停止 ス

ビジネス

トランプ米大統領、薬価を59%引き下げると表明

ビジネス

スズキ、関税影響など今期400億円見込む BYD軽
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    シャーロット王女の「親指グッ」が話題に...弟ルイ王子との微笑ましい瞬間が拡散
  • 3
    「隠れ糖分」による「うつ」に要注意...男性が女性よりも気を付けなくてはならない理由とは?
  • 4
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 5
    ロシア艦船用レーダーシステム「ザスロン」に、ウク…
  • 6
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 7
    SNSにはトップレス姿も...ヘイリー・ビーバー、ノー…
  • 8
    「股間に顔」BLACKPINKリサ、ノーパンツルックで妖艶…
  • 9
    ロシア機「Su-30」が一瞬で塵に...海上ドローンで戦…
  • 10
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 3
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 4
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 5
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 6
    SNSにはトップレス姿も...ヘイリー・ビーバー、ノー…
  • 7
    シャーロット王女の「親指グッ」が話題に...弟ルイ王…
  • 8
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 9
    ロシア機「Su-30」が一瞬で塵に...海上ドローンで戦…
  • 10
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 5
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 6
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 7
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中